今から、ちょうど100年前に作られた映画です。
ドイツの表現主義が、様々な芸術で花開いた頃に作られた1920年の映画で、古典中の古典。
僕が今まで見た中で、一番製作が古いものは、チャップリンの「キッド」でした。
これが1921年。
もちろん、サイレント映画です。
サイレント映画といえば、バスター・キートン物や、ハロルド・ロイドものは観ています。
でも、作られたのは1920年代。
1910年代にたくさん作られたチャップリンの短編集は、YouTubeなどで、つまみ食い程度には見ていますが、ちゃんとは見ていません。
というわけで、1920年の製作の「カリガリ博士」は、「キッド」よりも一年前の映画。
きちんと見た映画としては、一番古い作品ということになりそうです。
これを、Amazon プライムのラインナップで発見。
やっと見れました。
映画の虫だった、若かりし頃には、いろいろな映画の本をかたっぱしから読んでいましたので、映画史の知識としては、この映画のことは知っていました。
この作品の他にも、「吸血鬼ノスフェラトゥ」「巨人ゴーレム」などが、ドイツ表現主義の映画としては代表作。
前者は、後の「ドラキュラ」モノの原点。
後者は、大好きだった映画「大魔神」のモデルになった映画です。
この「ガリガリ博士」も、後の映画に、多大な影響を与えていくという意味では、クラシックとして、外せない映画です。
鑑賞しているうちに、この映画に影響されたであろう作品の方は、だいぶ見ていることに気が付きました。
その監督たちが、はたして、「ガリガリ博士」を意識したかどうか。
それはわかりませんが、映画は、ハッキリと物語っています。
まずは、ドイツにおける表現主義とは、どんなものか。
対象を写実的にとらえず、作者の主観と個性のままに変形して現わそうとする表現主義
・・という事だそうです。
まずこれで最初にピンときたのは、ヒッチコックの、「白い恐怖」。
まさに人間の内面である「夢」を映像にしたシーンがありました。
あの有名なサルバトーレ・ダリが監修した事で有名なシーンですが、あのシークエンスは、そのまま、ドイツ表現主義の映像感覚でしたね。
「ガリガリ博士」は、オールセット撮影。
その背景の家、テント、壁、家具、道は、極端に歪められ、不自然に傾いています。
つまり、これは主人公の心象風景というわけで、ラストのオチにちゃんと、つながっていきます。
見終わってみれば、映画の最初と最後だけは、正常なカットになっていましたから、構成としてはよく出来ています。
カリガリ博士が、自在に操る「夢遊病者」チェザーレ。
彼のメイクと造作は、間違いなく、後に作られた「フランケンシュタイン」へつながっていきます。
「シザーハンズ」の主人公の造形も、今見ると、かなり影響を受けているのが分かります。
ガリガリ博士のキャラクターと、そのオーバーアクトは、後に嫌というほど、いろいろな役者によって演じられてきたマッドサイエンティストの原型となるもの。
チェザーレが、殺そうとした美女に心を奪われて、連れ去るというシーンは、そのまま「キングコング」ですね。
光と影の演出も、後の映画に大きな営業を与えています。
白い壁に、黒い影・・・
これも、ホラー映画や、ハリウッドのギャング映画で、よく見たシーンです。
リアリズムよりも、内面表現重視のドイツ表現主義。
思い出しましたが、黒澤明監督の「夢」なんて、まさにその極め付けじゃないでしょうか。
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