「映画音楽」と聞くと、今でもすぐに頭に浮かんでくるのが、TDKのD-Type ローノイズの90分カセットテープです。
中学生の頃から始めた映画音楽の収集。
もちろんレコードが買えるほどお小遣いをもらっていたわけではありませんし、当時はまだレンタルもなかった頃。
どうやって、収集したのかといえば、もっぱらFM放送のエアチェックでした。
「FMレコパル」「週刊FM」などを購入すると、当時は各番組で使用される楽曲が丁寧に全部紹介されていました。
これを、チェックして、ラジカセで録音するわけです。
ジャンルごとに使用するテープは分けていましたが、映画音楽は、TDKのD-Type ローノイズの90分カセットテープと決めていました。
よく聞いていたのがNHK-FMで放送されていた「夜のスクリーン・ミュージック。1980年代の前半です。
パーソナリティは、関光夫。
NHKらしく、良心的な番組で、オンエアされる曲は、全てノーカット。
MCが曲にかかることも、曲をフェイドイン・フェイドアウトで繋げることもしないで、きっちりと丸々かけてくれました。
ですので、カセットデッキのポーズボタンに指を置いたままで、MCだけを丁寧にカットしながら、毎回録音していましたね。
かかる曲は、ほぼ例外なくオリジナル・サウンド・トラックでした。
これも嬉しかった。
いつの間にか、映画音楽は、オリジナル・サウンド・トラック以外は聞かないというようなこだわりも出来ていたのは、完全に、この番組の影響です。
映画音楽の、カセットテープは、次第に増えていき、最終的には、15本くらいまでになったと思います。
残念ながら、すでにそのカセットテープはありませんが、そのテープ達をヘビーローテーションで聞いていましたので、映画は見ていなくても、テーマ曲は知っているという映画が数多くありました。
70年代の後半くらいになってくると、ポップスの楽曲がそのまま映画に使われることも多くなり、映画音楽との垣根が次第になくなってきてしまいましたが、やはり映画音楽というジャンルは、基本的に、その映画のために作られた曲が前提であるべきだと今でも思っています。
70年代の前半までは、映画のテーマ曲のオリジナル・サウンドトラックがシングルカットされて、レコード発売されていることがまだありました。
「ジョーズのテーマ」なんて、そのままレコードのヒットチャートにランクインしてましたね。
「スターウォーズ」も、ディスコにアレンジ(MICO)されていましたが、どちらとも、作曲はジョン・ウィリアムスですね。
80年代になると、ヴァンゲリスの「炎のランナー」のテーマが、オリジナル・サウンドトラックとして、ビルボートの1位を獲得しましたが、おそらく、純粋な映画音楽作曲家によるサントラ版のヒットは、この辺りまでじゃないでしょうか。これ以降はちょっと記憶にありません。
やはり、映画音楽は特殊な音楽で、映画の映像とともに記憶されるもの。
映像と音楽の起こす化学反応が、見るものの感性に深く焼き付くわけです。
この映画には実に丁寧に描かれていますが、映画音楽は、監督のコンセプトを踏まえながら、作曲家が映像を見てイメージを膨らませて作っていくもの。
映画の中で、作曲家の誰かが言っていました。
「僕らは、監督の苦手な分野をサポートする立場。如何に監督のイメージをスコア(この映画の原題)にできるかが勝負。」
テーマ曲のサントラ盤が、音楽チャートにランクインすることはなくても、やはり、ハリウッドの第一線の映画音楽作りには、この作業のために、大変な手間とマンパワーと予算が使われているんだなあということは、この映画を見るとよくわかりますね。
ちなみに、映像をエモーショナルにするための音楽利用法として、黒澤明がよく使った「対位法」という手法があります。
つまり、壮絶なシーンに、あえてのどかな音楽を被せることで、そのシーンの壮絶さをより際立たせるという音楽演出。
個人的には、これに対するアプローチも少々期待しましたが、この映画には、残念ながら「対位法」に対する言及はありませんでした。
やはり、ハリウッド映画は、ロマンチックなシーンはよりロマンチックに、感動のシーンにはフルオーケストラで盛り上げ、アクションシーンでは、手に汗握る音楽で畳み掛ける。
映像のエモーションに対して、映画音楽は、それに忠実なスコアで盛り上げる。
どうやら、これが基本のようです。
僕がさんざん映画音楽を聴いていた頃のエース達である、モーリス・ジャールや、エルマー・バーンスタスイン、ミッシェル・ルグラン、フランシイ・レイ、ヘンリー・マンシーニ、ニーの・ロータといった御大たちは、残念ながら取り上げられていませんでしたが、エンリオ・モリコーネやアルフレッド・ニューマン、ジョン・バリーといったレジェンド達は、しっかり取り上げられていたのは嬉しい限り。
ジョン・ウィリアムスは、やはりスペシャル待遇でしたね。
音楽で、映画を盛り立てるのが映画音楽に与えられた唯一のミッション。
そのために、映画音楽に課せられたルールはたった一つだけ。
これは、アカデミー賞も受賞した映画音楽家のハンス・ジマーが言っておりました。
「映画音楽には、ルールはないというルールがあるだけ。」
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