さて、シリーズ12作目です。
ロジャー・ムーアのジェームズ・ボンドも本作で5本目。
ここまで、監督についてはノータッチでしたので、まとめてやっておきます。
「死ぬのは奴らだ」「黄金銃を持つ男」は、ガイ・ハミルトンでした。
この監督は、3作目の「ゴールド・フィンガー」7作目の「ダイヤモンドは永遠に」も担当しています。
男っぽい映画を作るのが得意で、戦争映画の「空軍大戦略」や「ナバロンの嵐」なども有名。
「私を愛したスパイ」「ムーンレイカー」は、ルイス・ギルバード。
この人は、5作目の「007は二度死ぬ」も担当しています。
意外にも、「フレンズ」のような繊細な映画も撮る監督です。
というわけで、ここまでのロジャー・ムーア007は、シリーズ常連の監督達でしたが、今回のジョン・グレンは本作で初メガホン。
しかし、ここまでの作品のスタッフ・クレジットをちゃんと見ていると、この人の名前はピンときます。
「女王陛下の007」「私を愛したスパイ」「ムーンレイカー」で編集を担当していた人ですね。
前作「ムーンレイカー」で、宇宙にまで飛び出してしまったジェームズ・ボンド。
ここで、シリーズは、スパイ映画の原点である、フィジカル・アクション路線に原点回帰します。
設定がかなりぶっ飛んでいた1作目の「ドクター・ノー」から、2作目の「ロシアより愛をこめて」で、アクション映画の王道に路線変更した時と似たパターン。
やはり、シリーズが暴走したりマンネリにならないように、製作側としては、色々とバランスを考えているのでしょう。
但し、アクションをメインにするのには、ちょいと主演のロジャー・ムーアがお年を召しすぎていたかもしれません。
当然、キレのある「体を張った」アクションは、彼にはちょっと無理。
ラブシーンや、コメディ・シーンは本領発揮かもしれませんが、見せ場のアクションは、当然すべてスタントマンにお任せということになります。
この路線変更を機に、ボンド役の若返り案も浮上し、実はロジャー・ムーアもそれを望んだようですが、まだこの段階では、ティモシー・ダルトン、ピアーズ・ブロスナンのジェームズ・ボンドは実現には至らず。
すでに54才になっていた、ロジャー・ムーアが引き続き頑張ってくれました。
さて、本作のボンド・ガールは、キャロル・ブーケ。
シャネルのモデルも務めたという黒いロングヘアーの正統派美人。
しかも、フランスのソルボンヌ大学卒業という才媛です。
絵に描いたような「クール・ビューティ」ということで、今までのボンド・ガールとは、明らかに扱いが違いました。
まず、ボンド・ガール定番の、いたずらに胸元の開いたセクシー・ドレスは一切なし。
ボンドとのベッド・シーンもなし。キス・シーンも最後に一度だけ。
僕のようなミーハーな007ファンとしては、やや納得がいかない、明らかなVIP待遇でした。
その部分をカバーしたのが、リスル伯爵夫人を演じたカサンドラ・ハリスでした。
ボンドと一夜を明かした後に、ギリシャの組織に殺されてしまいますが、彼女の当時の旦那だったのが、後に5代目ジェームズ・ボンドになるピアース・ブロスナン。撮影現場にも来ていたそうです。
もう一人ボンド・ガールを演じたのが、当時人気絶頂のプロ・スケーターだったリン=ホリー・ジョンソン。
「スクリーン」の表紙にもなっていたアイドルでしたからよく覚えています。
ここでちょっと気になって、彼女のプロフィールをWiki してみましたが、歴代のボンド・ガールの中で初めて僕と同じ年齢のボンド・ガールの登場でした。
オリンピックを目指す少女の役でしたが、ちゃんとボンドとのキスシーンもあり。
ちなみに、ロジャー・ムーアとの年齢差がなんと31歳。
「昼下がりの情事」のオードリー・ヘップバーンとゲーリー・クーパーが28歳差でしたからそれ以上です。(「シャレード」での、ケーリー・グラントとオードリー・ヘップバーンは33歳差でしたが)
主題歌を歌唱したシーナ・イーストンは、オープニング・タイトルにも登場。
ちょうどMTVが盛り上がっており、小林克也の「ベストヒットUSA」は、毎週見ていた頃でしたので、モーリス・ビンダーによる、この曲のビデオ・クリップはよく覚えています。
映画ではもちろん、これにスタッフやキャストのクレジットが入りますが、YouTubeで確認したら、クレジットが入らないバージョンがそのままビデオ・クリップになっていました。
アクション重視で、ロジャー・ムーアの007としては、比較的シリアスな映画になっていましたので、前作ほどの「お遊び」はありませんでしたが、ラストで、誰でもわかるイギリス映画ならではの極め付けがありましたね。
これは見てのお楽しみ。
映画の冒頭、ジェームズ・ボンドが花を手向ける墓の墓碑銘には「トレーシー・ボンド 1948-1969」と刻まれています。
これは、第6作目(1969年公開)の「女王陛下の007」を見ていないとわかりません。
ラストで、結婚直後に、ブロフェルドに殺されてしまったのが、ボンドの妻トレーシー。
殺したブロフェルドを演じたのが、スキンヘッドのテリー・サバラスでした。
ボンドを殺そうとヘリコプターをリモコン操作する車椅子の男もスキンヘッド。
演じているのが、テリー・サバラスだったら面白いと思いましたが、残念ながら顔は確認できないように撮られていました。
ボンドに協力するギリシャ組織のコロンボを演じたのはトポル。
「屋根の上のバイオリン弾き」のテビィエ役が有名ですが、個人的にはミア・ファーロー主演の映画「フォロー・ミー」のとぼけた探偵役が好きでしたね。
007の上司であるMが、本作では休暇で不在という説明でした。
第一作からMを演じ続けてきたバーナード・リーが、撮影に入る前に亡くなっていますね。
アバンタイトルでのヘリコプター空中アクション、スキー、海中アクション、もちろんカーチェイスあり、山岳アクションありのアクション・シーンてんこ盛りの本作。
さて、次は何がくるか。
1962年から始まったシリーズも、すでに本作時点でおよそ20年が経過。
イギリス映画のプライドを一身に背負い、時代の波に乗りながら、007シリーズは、この後もまだまだ続きます。
次の作品は「オクトパシー」です。
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