007 トゥモロー・ネバー・ダイ
ピアーズ・ブロスナンが007を演じた2作目です。
1997年の製作。
シリーズ第18作目。
映画の冒頭、オープニング・シークエンスは、ロシアの国境近くで開かれていた武器取引マーケット。
日本からのバイヤーが、「東京の地下鉄毒殺事件」の関係者というセリフがありニヤリ。
そういえば、オウム真理教による地下鉄サリン事件があったのは、1995年でした。
そこに集まっているのは、各国のテロリストたち。
そのマーケットに核搭載魚雷があることを知らずに、イギリス海軍艦艇は、巡航ミサイルを発射してしまいます。
あわや、チェルノブイリの悪夢かと思われたその時、我らがジェームズ・ボンドが、魚雷を積んだ飛行機ごと奪取。
そしてメインタイトル後、場面は変わって南シナ海。
公海上を航行していたはずのイギリス海軍フリゲート艦が、中国人民解放軍のミグ戦闘機に攻撃され沈没。
フリゲート艦は、GPS機能を狂わされ、中国の領海内を知らずに航海していたんですね。
そして、救助を求めた乗組員たちは、謎のステルス艦から一斉射撃を受けて皆殺しに。
この事件を仕組んだのは、実はメディア王のカーヴァー。
乗組員達を射殺した銃弾を中国製にして、英中戦争を誘発させ、その報道を一手に独占するマッチポンプを演出しようというのが彼の魂胆。
カーヴァーの目的は、このニュースを、世界のどのメディアよりもいち早く報道して、博大な利益を得ること。
今までのシリーズでは、ちょっと見たことのない悪党です。
敵の策略にまんまと乗りかけたイギリス側。
しかし、その報道のあまりの速さに、疑問を抱いたのがMI6のMとジェームズ・ボンド。
ことの真相を確かめるため、ボンドは、銀行家を装って、カーヴァーの新聞「トゥモロー」の本拠地のあるハンブルグへ。
実は、カーヴァーの夫人パリスが、ワケアリで別れたボンドの元カノということで、ボンドは彼女に顔を引っ叩かれながらも接近します。
しかし、やけぼっくりに火がつくのは当然の流れで、これを知ったカーヴァーに、彼女は殺されてしまいます。
このパリスを演じたのがテリー・ハッチャー。
この展開は、第3作目の「ゴールド・フィンガー」で、やはりボンドに寝取られて、身体中金粉を塗られて殺されたシャリー・イートン(役名は、ジル・マスターソン)を思い出させます。
ボンドが、潜入したカーヴァーの新聞社ビルから奪取したものは、GPSを誤作動させる暗号機。
今では当たり前のGPSが、ボンド・シリーズでは初めて登場しましたね。
シリーズを製作順番に見てくると、こんな発見があってなかなか面白い。
やはり「ゴールド・フィンガー」に、敵の車に仕込んだ発信機の信号を、アストン・マーティンのモニター地図上に表示させるという場面がありましたが、あの頃はまだGPSという単語は出てきませんでした。
そういえば、映画に携帯電話が登場したのも、本作が最初ではないでしょうか。
ちょうど、僕が初めて、会社から携帯電話を持たされたのもこの頃でしたね。
他のどんな秘密兵器も、時代を先取りしていた007シリーズですが、携帯とパソコンだけは、常に時代とシンクロしていて、なかなか興味深いところ。
この二つだけは、自分の持っているものが、映画の中に出てくるものと近いので、シンパシーを感じてしまいます。
しかし、車となると、さすがにそうはいかない。
当時僕が乗っていたのは、オンボロのミラージュでしたが、本作に登場するボンドカーは、BMW 750iL。(Wiki より確認)
カーヴァーのビルから、ボンドが脱出するシーンで活躍しますが、極め付けはコントローラーによる自動操縦。
ボンドは、終始後部座席から、車を操縦します。
シリーズでは定番のカーチェイスも、マンネリらならないように、あの手この手を考えなければいけないので大変です。
最後は、ビルからのダイブで、向かいのビルのレンタカー・ショップに飛び込むという派手なアクション。
ボンドは、このボンドカーを、同じレンターカーショップのスタッフを装ったQ(もちろん、演じているのはデズモンド・リューエリン)から受け取っているので、「返却完了」というボンドのセリフにはニヤリ。
さて、奪取したGPS暗号機から、沈没したイギリス艦の位置を割り出したボンドは、アメリカ軍の沖縄基地から、ベトナムに近い中国領海内へ。
この沖縄基地で、久しぶりにイギリス海軍の軍服に身を包んで登場したボンドを迎えたアメリカのCIAが、またしても、あのジョン・ウェイド。
ジョー・ドン・ベイカーはこれで3作続けてのシリーズ登場となりました。
ウェイドに案内されて、目標地点に潜ったボンドは、首尾良くフリゲート艦を発見。
その海底で、同じくフリゲート艦を追っていた中国のエージェントと遭遇します。
ハンブルグでも、中国メディアの記者を名乗って、カーヴァーを追っていた中国の国外保安隊員ウェイ・リンです。
メインのボンド・ガールかと思われたカーヴァー夫人パリスが殺されてしまった後に、颯爽と登場したボンド・ガールは、アジア系のマレーシア人女優ミッシェル・ヨー。
日本を舞台にした「007は二度死ぬ」のボンド・ガール若林映子、浜美枝以来となる、久々のアジア系ボンド・ガールに、日本人としては思わず拍手。
ボンドは、彼女と協力して、カーヴァーの牙城に迫り、彼の陰謀を阻止していくという展開。
まあとにかく、このミッシェル・ヨーのアクションがすごいのなんの。
クンフー・ファイトはもちろんのこと、男真っ青のアクションもバンバンこなしています。
歴代のボンド・ガールの中では、文句なくナンバー・ワンの身体能力。
前作では、サンクトペテルブルグでのタンクチェイスが見せ場でしたが、今回の主役はオートバイ。
ボンドとリンは、手錠で繋がれたまま、オートバイに跨り、ヘリコプター攻撃を受けながらサイゴンのスラム街を疾走します。
そして、決戦の舞台は、カーヴァーが所有するフリゲート艦へ。
今回の悪役は、メディア王という設定でしたが、実際にこの役のモデルになった人がイギリスにいたそうです。
ロバート・マクスウェルという人。
この人が、バカンス中のヨットから転落して水死しているそうで、これを受けた、ジュディ・デンチ演じるMの最後の決め台詞。
「カーヴァーは、海上で事故死した模様と、メディアには伝えておいて。」
その昔、メディア王をコケにして、ハリウッドを干されてしまったのは、「市民ケーン」を作ったオーソン・ウェルズ。
しかし、そんなことはものともせずに、ギャグにしてしまう精神は、さすがにモンティ・パイソンの国イギリスです。
大手権力に忖度しまくりのどこかの国では、逆立ちしても真似できないイギリス映画の面目躍如。
うん、なかなか面白かった。
さて、お次は「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」!
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