おしゃれ泥棒
1966年の作品です。
主演は、オードリー・ヘップバーン。
相手役は、ピーター・オトゥール。
監督は、「ローマの休日」で、オードリーを一躍スターダムにのし上げたウィリアム・ワイラー。
「噂の二人」に続いて、オートドリーとは、三度目のタッグ。
オードリー作品の音楽といえば、ヘンリー・マンシーニですが、本作の音楽担当は、当時マンシーニの元で修行中だったジョン・ウィリアムス。(名義は、ジョニー・ウィリアムスでした)
当時の、オードリー・ヘップバーンといえば、すでに押しも押されぬ大スターでしたが、彼女のファンは、意外と男性よりも女性の方が多かったのではないかというのが僕の印象です。
彼女は、ナイスバティで、セックス・アピールがムンムンというタイプではありませんでしたので、僕のようなスケベなヤロウ映画ファンとしては、映画館の名画座まで追いかけてみたという記憶はありません。
それでも、彼女の作品のほとんどは、当時ほぼテレビ放映されていましたので、有名どころはほとんど憶えていますね。
ですので、オードリーの声といえば、彼女の肉声よりも、吹き替えをされていた池田昌子さんの声の方が、今でもしっくりきます。
本作は、オードリー作品としては、数少ない見逃している一本でした。
さて、タイトルが既に物語っていますが、オードリー・ヘップバーンといえば、やはりファッション・アイコンとしての存在が大きい人です。
決して、正統派の美人ではない彼女は、よく「ファニー・フェイス」なんて呼ばれてました。
簡単に言ってしまえば、「個性派美人」です。
例えば、イングリッド・バーグマンやエリザベス・テイラーが正統派ハリウッド美人だとすれば、彼女のルックスは、パーツがすべて大作りで、とてもアニメ的です。
イラストなどを描いてみると、これが実によくわかります。
人形のような大きな瞳、しっかり張ったアゴ骨、長い首、ぺっちゃんこな胸、長い手、大きな足。
それから、これは今回見て初めて気が付いたのですが、彼女は意外と背も高い。
「ローマの休日」や「昼下がりの情事」などの印象では、ちょっと小柄なイメージがありましたのですが、Wiki してみたら、170cmもあるんですね。
確かに、グレゴリー・ペックもゲイリー・クーパーも、身長は190cmありましたので、当時は気が付かなかったのかもしれません。
本作でも、イーライ・ウォーラックとのキスシーンでは、身長のバランスを取るのに、彼女はヒールを脱いで撮影したそうです。
というわけで、他のハリウッド女優と比べれば、大きなウィーク・ポイントがあったオードリー。
それは自分自身でも、ちゃんとわかっていたと思われます。
確か、「昼下がりの情事」では、それを淡々と自分で話すシーンがありました。
しかし、そんな欠点を逆手に取った、大逆転策が彼女にはありました。
それが、「おしゃれ」が似合うというストロング・ポイントです。
これは、彼女にとっては武器でした。
とにかく、そんな彼女が映画の中で披露するファッションは、どれもこれもため息が出るほど素敵。
「麗しのサブリナ」の「サブリナ・パンツ」は特に有名ですが、初期の彼女の映画のファッションを支えたのはイーデス・ヘッド。
そして、30代になって大人の魅力を振りまきはじめてからの彼女のファッション・パートナーといえば、ユベール・ド・ジパンシー。
もちろん、本作でオードリーの着るすべての洋服のデザインを担当したのは彼です。
そして宝石アクセサリーの担当は、カルティエ。
パリ・ファッション界の最高峰コンビですね。
とにかく、ジパンシーによるオートクチュールの数々は、オードリーの体型と個性が計算され尽くしたデザインでしたので、どれもウットリするほど似合っていました。
「ティファニーで朝食を」の裾にフリンジをあしらった黒のシンプルなドレスに、つばの大きな帽子のファッションも、「シャレード」のオレンジや白のコートも、さすがのジパンシーですが、オードリーのファッションを楽しむという意味では、本作はその極め付けともいうべき作品ですね。
冒頭で披露した、バッキンガム宮殿の衛兵のような白の帽子に、大きなサングラス、そして白のコートのファッションでいきなり度肝を抜かれますが、メタルのボタンが、どこかカジュアルな毛足のないブルーのコートも、襟元が幅広のハイネックになっている白のワンピースも、ツイードのジャケットも、やはりどれも素敵。
そして、改めて見てみると、どのファッションも、驚くほどシンプルなデザインで、色も単色、アクセサリーも、そんなファッションを邪魔しないように配慮されていることに気が付きます。
今からもう55年も前の映画なのに、オードリーのファッションが、まるで古さを感じさせないのは、おそらくそのせいでしょう。
そして、もう一つ。
ジパンシーのデザインは、オードリーの、ハリウッド女優としての欠点を、隠すというよりは、むしろ積極的に活かしていたとい点。
例えば、オードリーのさりげない手袋の着こなし。
あれなどは、完全に彼女の長い手を計算しているファッションでしたね。
あれは、絶対手足の短い日本人には似合わないはず。
ファッションの極意とは、実は自分の嫌いな点にこそ、しっかりと向き合うことだと教えられるわけです。
さすがは、ファッション界の大御所ジパンシー。そりあたりは、まさにプロです。
オードリー・ヘップバーンという類まれなモード・ファッション素材を活かし切って、自分のオートクチュール・デザインを世に広くアピールしたというわけです。
偉そうにファッションなど語るようなガラでもない百姓ですが、個人的に、本作で僕が一番気に入ったオードリーのファッションは、実は、美術館の清掃作業員ルックでしたね。
紺のワンピースに、ブルーのエプロン、茶色の帽子を深々とかぶるだけなんですが、着こなしの差なんでしょうか、他の清掃のオバチャンたちの中にいても、明らかに彼女とわかるオーラ。
結構可愛かったんだよなあ。
まさか、あのデザインまで、ジパンシーではないと思いますが・・。
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