「雪が見たい」
そう思ったのは、真夏の8月のことでした。
もちろん、北極か、南極か、ヒマラヤにでも行けばいつでも見られるのでしょうが、たった一日の休日でそれを実現する方法があるか。
ネットで色々と調べていたら、一箇所だけ可能性がありそうな場所がありました。
それが北アルプス立山黒部の標高の高いところ。
もちろん、本格的な山登りで挑むのは無理ですが、ここは1971年に、立山黒部アルペンルートが開通していて、乗り物を乗り継いで、標高2450mのところまで、ほぼ普段着で行けたんですね。
高速を飛ばして向ったのが、2010年の8月19日のことでした。
立山駅からケーブルカーで美女平に登り、高原バスに乗り換えて、室堂まで登ったところで、山肌に根雪を確認。
触ることはできませんでしたが、一応目的を達成しました。
せっかくここまできたので、トロリー・バスとロープウェイを乗り継いで、大観峰から黒部湖へ降りて、黒部第四ダムまで足を伸ばしました。
通称黒四のダムは、関西電力の管轄で、当時逼迫していた関西方面の電力事情問題を解消すべく、黒部川に建設された水力発電専用のダム。
「世紀の難工事」といわれ、およそ5年の歳月をかけ、171人の殉職者を出しながら完成しました。
これをもとに書かれた小説が「黒部の太陽」。
そして、この小説を原作に、当時の日本映画としては、空前のスケールで製作されたのが本作です。
主演は、石原裕次郎と三船敏郎という、当時の日本を代表するビッグスター。
工事同様、映画製作においても、当時としては、空前の製作費をかけて作られた映画です。
映画は大ヒットしましたが、個人的には未見でした。
真夏でも涼しい黒部渓谷のその雄大な景観にも圧倒されましたが、これが冬であれば、また違う感動があるかも。
空前の大工事に思いを馳せつつ、これは、帰ったら「黒部の太陽」は見ておかねばなるまいと心に決めたんですね。
ところが当時、この作品のDVDが、TSUTAYA に行っても、GEO に行っても見当たらず。
よくよく調べてみたら、版権を所有していた石原プロが、ビデオ化を拒否していたとのこと。
テレビ放映もあったようですが、短縮版で相当部分がカット。
2014年になって、やっとBS日テレでノーカットが放映されたのものを録画しましたが、残念ながら、これがコマーシャル入りで4時間の長尺。
録画したはいいものの、当時は忙しくて、なかなかこの長い映画をゆっくり見る時間もありませんでした。
そのまま、引き出しにしまってあったBlu-rayを、今回やっと引っ張り出してきたというわけです。
映画は、黒四ダム工事を成功させるために不可欠であった、関電トンネルの開通が物語のメイン。
この第三工区を担当したのが、「熊谷組」で、他の工区を担当した土木建設会社「間組」「大成建設」なども、みんな実名でした。
特に、物語のクライマックスになったのは、フォッサマグナ特有の破砕帯の突破。
北アルプスの潤沢な水分がたっぷり染み込んだ岩盤から冷水が噴出してくるわけですが、この撮影は苦労したようです。
出演者のタイトルロールも、ビッグネーム順ではなく、「工事に関わった全員が主人公」という意図で、あいうえお順だったのも印象的。
映画は今回が初めての観賞でしたが、NHKで放送された「プロジェクトX」で、この黒四ダム工事が取り上げられた時は、涙をウルウルさせながら、しっかり見ています。
そういえば、この番組の主題歌「地上の星」を歌った中島みゆきが、紅白歌合戦で、黒部の関電トンネルをバックに歌っていましたね。
今改めてこの映画を見ると、色々と楽しい発見もあります。
まず、三船敏郎と志村喬という黒澤映画の名コンビが、カラーで同じ画面の中にいるのを初めて見ました。
黒澤作品の数多い名作の中で、二人は多く共演していますが、その全てはモノクロでした。
石原裕次郎は、本作の4年後に、ドラマ「太陽にほえろ!」に出演しますが、あの刑事たちの中でチョウさんを演じた下川辰平とのツーショットがあって、これには秘かにニヤリ。
後に、「男はつらいよ」で3代目の「おいちゃん」を演じた下條正巳が、山を離れていく労働者の一人を演じていましたが、まだ髪は真っ黒でした。
本作には、当時民藝を率いていた名優宇野重吉も出演していますが、息子である寺尾聰が、実際に実子の役で親子共演。
寺尾は、後に石原プロのテレビドラマ「西部警察」で、裕次郎と共演しています。
黒四ダムを訪れてからは、もう10年以上経ってしまいました。
あの日、放水し始めたダムの水の上に、綺麗な虹がかかったのを思い出します。
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