ジェーン・アッシャーといえば、ビートルズ・ファンならどこかで聞いたことのある名前だと思います。
1963年から1967年にかけて、ポール・マッカートニーの恋人だったのが彼女。
この時期の、ポールのプライベート写真を見れば、いつでもその横には彼女が写っていたものです。
ちょうど彼女が、18歳から23歳くらいにかけての時期ですね。
彼女の家庭は、ロンドンの典型的な上流階級。
ポールは、そのうちの3年間を、このアッシャー家に間借りして暮らしていて、ピアノなども置いてある彼の部屋には、ジョンもちょくちょく遊びにきていて、ビートルズの初期の曲の多くが、そこで作られています。
「A HARD DAY’S WRITE」という、ビートルズ・ナンバーの裏話を集めた本を読んでいると、ポールの初期のラブ・ソングには、恋人ジェーンの影響が大きいことがよくわかります。
両親ともに知識人であるアッシャー家には、最新ポップ・ミュージックや演劇、最新の心理学の知見に至るまで、幅広い文献や定期刊行物が自由に見られる環境で、労働階級出身のポールの知的好奇心を大いに刺激したようです。
「オール・マイ・ラビング」や「アンド・アイ・ラブ・ハー」もそんなジェーンとの生活の中で生まれた曲ですし、「恋を抱きしめよう」「ユー・ウォント・シー・ミー」は、ロック・スターのガール・フレンドというだけでは満足せずに、自分のキャリアを追求しようとする彼女に、「僕のそばにいて」と訴えたナンバー。
「フォー・ノー・ワン」は、恋人から心が離れていく気持ちを歌ったバラードですし、「ヒア・ゼア・アンド・エブリウェア」は、二人のロマンスが、そこからまた再び好転した頃に書かれた曲。
もちろん、どの曲も大好きなビートルズ・ナンバーですが、その曲が書かれた頃のポールの脳裏には、常にジェーン・アッシャーがいたわけですね。
ポールの浮気が原因で、結局二人は婚約を解消し、別れることになります。
ジェーンは以降のインタビューでも一切ポールとの関係については口を閉ざしてしまいます。
ポールの方は、婚約を解消したその年には早くも、シングル・マザーだったリンダ・イートマンと結婚したのはご存知の通り。
「早春」が製作されたのは、1971年ですから、ジェーンは26歳。
この映画で彼女は、堂々とヌードを披露していますが、ポールとのロマンスの頃からは、女優としても、女性としても、一皮も二皮も剥けていた彼女を確認できます。
ポールが本作を見たかどうかは定かでありませんが、見ていたとしたら、「大人の女性」に成長しているかつての恋人のこのかなり「キワドイ」映画を、どういう思いで見たかは興味のあるところ。
もしも、まだこの時にまだ二人がつきあっていたとしたら、「お願いだから、やめてくれ」とポールが彼女に懇願したかもしれません。
さて、本作は「性に目覚めた少年の、年上の女性に対する屈折した愛情」を、独特の映像美で表現した、知る人ぞ知るカルト映画。
この頃は、この手の映画が数多く作られていて、当時は、本作の主人公同様、かなり「こじらせた」マセガキだった僕としては、映画雑誌「スクリーン」「ロードショー」を詳細にチェックしては、「見逃してなるか」とばかり、健全な映画には目もくれず、なけなしのお小遣いは、この手の怪しい映画の鑑賞に、惜しげもなく費やしていました。
おかげで、理想の女性像は「年上の大人の女」というのがすっかり定着してしまい、同級生の女子たちが子供に見えてしょうがなかったことを思い出します。
本作で、ヒロインにのめり込んでいく少年マイクを演じたのは、ジョン・モルダー=ブラウン。
繊細な美少年で、「小さな恋のメロディ」のマーク・レスターと共に、当時は女の子たちには人気がありました。
本作は、当時見逃していたのですが、同年に製作されたツルゲーネフの小説を名優マクシミリアン・シェルが映画化した「初恋」は、強烈に覚えていました。
やはり同じように、この映画でも彼は、年上の奔放な女性に振り回される少年の役。
年上の女性を演じたのは。ドミニク・サンダ。
強烈な眼差しと、エロティックな薄い唇が魅力的な女優でした。
この二本で彼の俳優としての彼のイメージは固まり過ぎてしまい、その後は消えてしまいましたね。
監督は、イエジー・スコリモフスキというポーランドの監督。
アンジェイ・ワイダや、ロマン・ポランスキーといったポーランドの巨匠たちとも一緒に仕事をした人です。
原作の”DEEP END”というのは、プールの一番深いところの意。
プールでの撮影にこだわった彼の独特の撮影美には、カルト的ファンを多く獲得しており、2018年になって、リバイバル公開されたものが、Blu-ray化されています。
僕の手元にあるのもこれ。
特典映像に、その際の監督インタビューがついていました。
往年のイギリスのセクシー女優ダイアナ・ドースを起用する件については、楽しそうに語っていました。
かつての「こじらせ少年」だった自分に一言いっておきましょう。
「お前は、還暦を超えた爺さんになっても、それほど大人になっていないようだぞ。」
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