ひろしま
2021年の原爆の日8月6日。
広島で開催された平和記念式典において、我が国の首相は、追悼原稿の最も肝となる部分を、事もあろうに読み飛ばすという失態を演じて顰蹙を買っています。
世界中に恥を晒し、広島の原爆関係者をも侮辱するに等しい菅総理のこの無神経さ。
持ち上げるつもりはありませんが、こういう場でのパフォーマンスの重大さを分かりすぎるくらいわかっていた前総理なら、絶対にありえないミスだったと思われます。
もはや、現総理には、そんな意識さえ働かないのでしょう。
世界中が注目するこのパフォーマンスにも、心ここに在らず。
やむを得なく陳謝するも、事務方のミスと、平然と片付けようとする姿勢には、政権総理としてよりも、むしろ一人の人間として末期的なものを感じます。
もともと、総理としての発言を、用意された原稿でしか語れないこの方が、もはやその原稿さえまともに読めないということになれば、いっそのこと、何も語らないでいてくれる方が、国民も無駄に恥をかかずにすみます。
この失態により、もはや、日本国民にとっても、被曝当事者の広島市民にとっても、原爆の悲劇は風化しつつあるのだという、あってはならないメッセージが世界に伝わってしまったとしたら、この首相の罪は計り知れません。
本作は、広島原爆投下から、8年後の1953年に作られた広島市民総力による渾身の反戦映画です。
新藤兼人監督による「原爆の子」と原作は同じですが、劇映画としてドラマ性を前面に出した新藤作品とは違い、圧倒的なリアリズムで、広島の悲劇を映像化している作品です。
冒頭のタイトルで、出演俳優の名前よりも先に、「広島県労働組合」「原爆の子友の会」「原爆被害者の会」などのエキストラ団体の名前が先にクレジットされるのですが、こんな映画は今まで見たことがありませんでした。
まだ原爆の記憶が生々しいはずの9万人近い一般市民のエキストラが、手弁当で参加したそのモブシーンの迫力こそ、この映画の全てといっても過言ではないでしょう。
この映画にも出演している岡田英二主演の「二十四時間の情事」、今村昌平監督の「黒い雨」等々、原爆関連の映画は、これまでにも何本か見ていますが、こんなケレン味のない、ド直球の反戦映画は、見たことがありません。
そのメッセージを発信する権利と義務を持った人たちが、人々の記憶から、この惨劇の記憶が風化していくことを恐れ、本当は忘れてしまいたいかもしれない自らの気持ちとも闘いながら、その鮮烈な記憶をエネルギーとして、残しておかなければならない作品を、残しておくべき形で、なんの妥協も忖度もせずに映像化したのが本作「ひろしま」。
我が国の総理におかれましては、是非とも正座をしていただき、決して「読み飛ばす」ことなく、心して全編を最後までしっかりと鑑賞していただきたいモノです。
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