座頭市の歌が聞こえる
勝新太郎の座頭市シリーズは、全26作品。
WOWOWで、シリーズ一挙放送という特集が組まれたことがあって、これは逃すものかと全作品録画にトライしたのですが、残念ながらところどころ抜け落ちて、確認したら録画できたものは17作品。
まあいいでしょう。
これだけ録画してあれば、長い老後をかけて、ゆっくり楽しめます。
本作は、シリーズ第13作目でした。1966年の作品です。
座頭市は、映画だけでなく、テレビシリーズにもなっていて、これはチラリと見た記憶があります。
シリーズ一作目は、1963年公開ですから、僕はまだ4歳ですね。
本作の公開当時は、7歳ですから、まさか映画館に見にいっていたとは思えません。
ただ、小学生の頃に、座頭市の仕込み杖らしきものが、自分のおもちゃの中にあって、これを使って、座頭市ごっこをしていた記憶があります。
「おめえさんたち、なにかい。」なんてセリフをどこかで覚えていて、近所の子供たちとチャンバラゴッコをしてたんですね。
勝新太郎よろしく、一生懸命白眼にしては、盲目の真似をするんですが、これは大人たちの評判があまり良くありませんでした。
見つかると「よしなさい。そんな真似するの。」なんて怒られたものですが、あの頃はその理由なんてものは、まだわかっていませんでした。
小学生だった自分と、座頭市がどこで接点があったのかと考えてみると、やはり映画館しか考えられません。
座頭市といえば、大映のドル箱ヒットシリーズでした。
多分、その頃ハマっていた、ガメラ・シリーズなら、何度も映画館に通って見にいっていたので、その時の予告編で見ていたのだろうと推測します。
それで、ワクワクさせられて、もしかしたら、小学生料金で、座頭市の映画を見にいったことはあったかもしれません。
そうそう。座頭市には、もう一つ接点がありました。
家の近くの商店街に、当時貸本屋があったのですが、そこに劇画コミックとして、座頭市シリーズか並んでいたのはよく覚えています。これは多分全冊借りて読んでいるはずです。
ググってみたら見つかりました。これですね。
描いた平田弘史氏は、あの頃よく時代劇作品を連載していらっしゃいました。
座頭市シリーズは、子母澤寛の短編小説が原作ということですが、一作目が大ヒットとなって、シリーズ化された後は、大映のスタッフや勝新太郎自身によって、大胆な肉付けが施されて、あのキャラクターになっていったもの。
ですから、あのコミックは、映画が公開された後の、漫画化だったと思われます。
その第1巻目が、「座頭市の歌が聞こえる」で、この映画のストーリーが、朧げに記憶にあったのは、おそらくそのためだったと思われます。
本作は、座頭市が歌う訳ではありませんが、浜村純演じる琵琶法師は登場して、一節うなっています。
宿場町を荒らすヤクザの親分を演じるのは、佐藤慶。相変わらず憎々しげな面構えです。
座頭市の宿敵を演じるのは、天知茂。
あのテレビ・ドラマ「非情のライセンス」で演じた会田刑事役で有名な人です。
強烈な悪人顔の俳優なのですが、本作では、逃げた女房を追いかけて、この宿場町まで流れてくるという浪人役。
最後は、お決まりの座頭市との一騎打ちです。
そして、この宿場で女郎にまで身を堕とした女房を演じるのは、小川真由美。
Wiki してみると、この時の彼女は、27歳で、まさにいい女盛り。
俗にいう「小股の切れ上がったいい女」というのがピッタリで、今の人に言っても「それ何?」と言われるかもしれませんが、個人的にはご贔屓な女優です。
この人といえば、「復讐するは我にあり」や「八つ墓村」のあの強烈な演技がフラッシュバックしてしまいますが、大好きだった「キイハンター」の後番組として放映された「アイフル大作戦」の探偵学校の女校長役も、艶っぽくて好きでした。
座頭市の居合を封じるために、祭り太鼓を乱打して、聴力を撹乱しようとするヤクザ一家とのチャンバラが、本作のクライマックスになりますが、ここがやや残念。
この作戦で、もう少し座頭市が窮地に陥るところを丁寧に描かないと、せっかくのアイデアが活かせないというのが、少々こウルサい映画ファンの感想ですね。
聴力を封じられても、結構あっさりと、ヤクザたちを切り倒していました。
ただ、こういう「お決まり」満載の人気シリーズ映画ですから、ストーリー展開の多少の強引さは目を瞑るのが礼儀というもの。
やはり、スタイリッシュで、劇画的な味わいは、今をときめくタランティーノ監督や、ティム・バートン監督あたりにも、脈々と受け継がれているDNAのような気がいたします。
北野武監督が撮った「座頭市」は見ていますが、キャラクターとしての味わいの深さは、やはり勝新太郎に軍配が上がります。
そうそう。
ビックリしたのですが、座頭市が周囲の気配を伺うシーンで、耳がピクピクと動くんですよ。
居合切りで、割れるサイコロや徳利と同じように、あの耳にも何かしらの細工をして撮影してるのかと思って調べてみたら、あれはちゃんと、勝新太郎が耳を動かす訓練をして習得したものなのだそうです。
僕の世代では、耳が動く人といえば、司会者のE・H・エリックや、「ウルトラQ」のケムール人の回で、主役の佐原健二が、耳をピクピクとやったのを覚えていますが、勝新太郎の場合は、役作りの一環として、数ヶ月かけて身につけた特技とのことなので、その役者根性はお見事と申し上げておきましょう。
「めくら」という言い方は、今は差別用語として放送禁止ワードになっていますから、地上波でのオンエアはなかなか難しいところかもしれませんが、この座頭市シリーズのヒットに乗っかって、女性版座頭市として松山容子主演の「めくらのお市」シリーズが作られていますね。
しかし、やはりタイトルのそのワードを入れてしまうとさすがにお蔵入りかもしれません。
その松山容子の主演ドラマで「旅がらす紅お仙」は好きでしたので、この人の姿というと着物姿しか浮かびませんが、今でも田舎の山道などを歩いていると、「ボンカレー」を持ってニッコリ笑ったこの人のホウロウ看板に出会えることがあります。
やはり、昔の日本映画には、どの映画会社にも、ちゃんと時代劇を作るシステムがありましたし、俳優の台詞回しや、所作にも、馴染んだ安定感があります。
クラシック映画ファンとしては、やはり安心して楽しめるのは、嬉しいところ。
座頭市シリーズは、マイ・コレクションの中に、まだまだたくさんの作品が眠っていますので、これからゆっくりと楽しませていただきます。
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