デッド・ドント・ダイ
とにかく、頭を空っぽにしてゾンビ映画を見たいというモードになる時があります。
我が家のDVD在庫にもゾンビものは何枚かありますが、そんなモードの本日選んだのは、Amazon プライムからのチョイスで、2019年の作品「デッド・ドント・ダイ」です。
今やゾンビ映画も、ジョージ・A・ロメロ監督の第一作から、さまざまなカテゴリーでアレンジされて、スタイルやジャンルもほぼ一周。
映画として、この美味しい素材を取り上げない手はないとばかりに、手を替え品を替え、直球勝負の王道A級娯楽大作から、変化球勝負のB級低予算映画まで、世界各国の映画人たちが、こぞって取り上げる、映画エンターテイメント定番のドル箱企画になった感があります。
とりあえずゾンビを登場させ、襲われた人間はゾンビになるとか、頭を破壊すれば死ぬとか、夜しか活動しないとかのゾンビ・ルールさえ押さえておけば、一定の集客は見込める美味しいアイコンとして、かつてのダーク・ヒーローの代表選手ドラキュラ伯爵よりもメジャーになった感のあるゾンビ。
自主制作レベルのものから、メジャー作品まで、その作品群は玉石混合と言っていいかもしれません。
タイトルを追ってみただけでも、すでにB級がが約束されているようなおちゃらけタイトルから、え?これがゾンビ映画なのと言うようなタイトルまで様々。
そんな作品群の中から、比較的自分の好みに合う作品を選ぼうと迷っている時間も、もったいないので、サムネイル画像とタイトルのセンスを見ただけの直感で、「えいやー」と選んだのが本作でした。
そんなわけで、B級上等くらいのつもりで見始めたわけですが、これがなかなか微妙な作品でした。
まず、驚いたのが、監督がジム・ジャームッシュだったこと。
へえ、この人がホラー映画を作りますかねと言うのが、まず最初の偽らざる感想。
初期の傑作「ダウン・バイ・ロー」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「パーマネント・バケーション」などの彼の作品の空気感で、ゾンビ映画を作ったら、いったいどういうホラーになるのか。
これがまず、最初の興味でした。
いつもの通り、全くなんの前知識もない状態で見ていたのですが、最近の映画にはまるで疎い僕でも、結構知っている顔がチラホラ。
まず主役の田舎の警察署長を演じるのがビル・マーレイ。
80年代に製作された「ゴースト・バスターズ」や「3人のゴースト」などで、活躍した俳優です。
もう70歳近い年齢で、堂々と主役はご立派。
彼の相棒となる巡査には、アダム・ドライバー。
この人は、2015年からの「スター・ウォーズ」シークエル・トリロジー3部作で、悪役のカイロ・レンを演じて一気にメジャーになった人。
2人とも、なかなかのビッグ・ネームです。
その他のキャストにも、ちょっと目を離せないキャスティングがチラホラ。
村の怪しきホームレスを演じているのが、歌手のトム・ウェイツ。
タランティーノ監督の「レザボア・ドッグ」や「パルプ・フィクション」で、クセのある役を演じていたスティーブ・プシェミも、農夫役で発見。
それから黒人枠には、「リーサル・ウェポン」のダニー・グローバー。
ちょっとビックリしたのが、一番最初に登場するカップル・ゾンビの男の方が、どこかでみたことある顔だなあと思ったら、ロック・アーティストのイギー・ポップでした。
まあまあ、これだけの面子をキャスティングしたわけですから、これで本作をB級と片づけてしまうのは、ちょっと失礼かもしれません。
しかし映画は、ちょうど「ツイン・ピークス」のようなアメリカン・カントリー・ホラーの様相を呈しつつ、少々コメディ・タッチでもあるという微妙なノリで展開。
ジム・ジャームッシュ監督に、全く気負いはなく、ひたすらゾンビ映画メイクを楽しんでいる感じが伝わってきます。
いきなり柔道着で登場し、真剣を振り回す、怪しげな女性葬儀屋が、ゾンビの首をバッタバッタと切り落としていくのは、タランティーノ監督の「キル・ビル」のノリ。
彼女は、鬼のようにパソコンを操作したかと思うと、やってきたUFOに乗って飛び去っていきます。
そんな具合に、まあとにかく、やりたい放題。
それから、主題歌でもあるカントリー・ウェスタンの曲に妙にごたわるのも、監督の趣味である気配が濃厚。
「たかがゾンビ映画」と、彼が思ったかどうかはわかりませんが、その分肩の力が抜けた、微妙なテイストとホラー映画が出来上がったのは間違いなし。
ゾンビをホラーで描くか、コメディで描くか。
マイケル・ジャクソンが、「スリラー」であれをやって以来、ここのところはどちらでもありの感じになっているのがゾンビ映画。
サム・ライミ監督の「死霊のはらわた」を見て以来、恐怖とお笑いは、実は紙一重なんだと言うことは学習していますので、個人的には、どちらに転んでも楽しめることは楽しめます。
しかし、この作品に関しては、どちらに転ぶかで、悩まされたと言うことだけは申し上げておきましょう。
この映画、ゾンビのファンならば、とりあえず不も可もないという線で一定の評価は得られたかもしれませんが、ジム・ジャームッシュ監督の新作に期待したファンにとってはどうだったか。
ちょっと聞いてみたいところです。
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