ホイチョイプロの馬場康夫氏がMCを務める「ホイチョイ的映画生活この一本」が好きで、毎回見ております。
最新映画を紹介するYouTubeチャンネルは、結構多いのですが、定年退職以降は、老後用に撮りためたDVDを全部見ようと決めておりますので、なかなか新しい映画を見る機会はありません。
しかし、この人の番組は、僕の世代が散々見てきたクラシックな映画を中心に掘り起こしてくれるので、僕のようなロートル映画ファンにはたまらない番組で、しっりとチャンネル登録させてもらっています。
実は馬場氏の語り口には、ホイチョイプロの最初の出版書籍である「見栄講座」の頃から魅了されております。
なので、作品への愛情に満ち満ちた(独特とも言える)氏の映画評を聞くと、それが自分の持っているDVD在庫の中にあれば、どうしても改めて確認してみたくなってしまうわけです。
前回本ブログで紹介した「アスファルト・ジャングル」もそんな一本でした。
番組は、馬場氏の映画史講義と並行して、ゲストとの対談の回が数多くアップされます。
概ね映画関係者がゲストなのですが、監督や脚本家などの裏方スタッフであることがほとんどなので、貴重な裏話が聴けて、こちらも結構楽しんでおります。
フジテレビのドラマ・プロデューサーだった亀山千広氏がゲストの回は、「踊る大捜査線」の裏話で大盛り上がり。
馬場氏が「記憶に残るアクシデント」の話題を振ると、亀山氏が即答したのが「踊る大捜査線 歳末特別警戒スペシャル」の大アクシデントでした。
リアルタイムでは見ていないのですが、「踊る大捜査線」シリーズは、だいぶ後になってレンタルビデオで追っかけて全部見ましたので、もちろんこれも記憶にあります。
はて? あのドラマに、そんな大アクシデントのシーンがあったか。
個人的にはちょっと思い出せません。
亀山氏の説明はこうでした。
「撮影スケジュールを残り一週間分残した時点で、主演の織田裕二に持病のヘルニアが発生。歩くことができないとの知らせが入った。
主治医の特別許可をもらって、織田君には、ストレッチャーに乗った状態で現場まで来てもらうことにした。
撮り残したのは、稲垣吾郎演じる犯人が、ライフルを持って、湾岸署刑事課を占拠するというクライマックス。
立っていられない織田君に合わせて、刑事たちは全員、床にうつ伏せになれという指示を犯人に出させることにした。
織田君には、顔のアップの演技だけしてもらい、後はカットを工夫して乗り切った。」
さあ、こう言われてしまうと、このシーンが気になって仕方がなくなります。
おぼろげにこのシーンの記憶はありますが、特にそんな違和感は感じていませんでした。
このドラマのオンエアは、1997年の年末です。
「踊る大捜査線」は、連ドラと映画版は、DVDで持っているのですが、残念ながらスペシャル・ドラマ版までは持っていませんでした。
しかし、なんとこの二時間ドラマのフルサイズをYouTubeで発見。
画質はイマイチでしたが、有料課金ではありませんでしたね。
こんなのが、アップされていてよいものかと思いつつも、やはり問題のシーンは確認させてもらいました。
なるほど。
そんな裏事情など知らずに、このドラマを見たときには、まるで気になりませんでしたが、その裏話を知った上で、問題のシーンをチェックすると、スタッフの涙ぐましい努力が確認出来ました。
まず、歩くシーンや、動きのあるシーンは、織田裕二の後ろ姿によく似せた俳優が代役で吹き替えていました。
立っているシーンは、バストショットを徹底し、胸から下は一切映していません。
しかし、映ってはいませんが、そのことを「わかって」見ていると、織田裕二が松葉杖をして立っているのは明白です。
そして、腰から下が映り込むときは、必ず織田裕二は、デスクによりかかっていましたね。
後は、前述のように、ずっと床に寝そべっての演技です。
これで、あのSIT突撃までのクライマックスシーンを、視聴者にはほぼ織田裕二の異変を気づかれずに乗り切ったのだから、スゴイものです。
おそらくは、当初の演出計画は捨てて、脚本の君塚良一氏以下スタッフが、有る限りの知恵を絞って、「当時の織田裕二に出来ること」だけを最大限に膨らませて、完成させたドラマだったということです。
亀山氏は、この撮影のときに、青島刑事の代名詞とも言えるあのコートを羽織って、松葉杖をつきながらトイレに行く織田裕二の後ろ姿を見て、不覚にもウルっときたと言っていました。
そして、そのカットを、翌年に公開された「踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の三日間!」のラストカットでは、どうしても使いたかったとのこと。
なるほど、そう聞いて腑に落ちました。
映画の方は、DVDがあるのでこちらも確認してみましたが、あのラストは、実は少々違和感があったんですね。
映画では、犯人に腹を刺されて入院していたはずの青島刑事が、どうして松葉杖のリハビリなのか。
僕も運送会社勤務が長かったので、腰痛で歩けないという人の姿は何人も見てきているのでわかりますが、あの後ろ姿は明らかにギックリ腰かヘルニアのもの。
明らかに刺傷患者のものではありません。
ラストシーンなら、もう少し気の利いたシチュエーションもあったろうになどと思ったものです。
しかし、それも事情を聞けばわかります。
あのラストカットをどうしても使いたかったプロデューサー亀山氏の「思い入れ」がそこにあったわけです。
こういう裏事情を聞いて、映画なり、ドラマなりを見直すと、これはこれで楽しいものです。
織田裕二は、2001年の「ロケット・ボーイ」の収録中にもヘルニアをやっています。
こちらは覚えています。
そのため、ドラマは第三回までで一旦休止となり、4週間後に再開。
全11話の予定だった脚本を、7話分に作り直したりで、けっこうグタグタなことになっていましたね。
撮影の方も、まともに動けない織田裕二をカバーしているのがわかるカットが明白で、ドラマ内では特に説明もないので、妙に違和感があり、痛々しかったのを覚えています。
亀山氏によれば、「踊る大捜査線」は、アンチ「太陽にほえろ!」を旗印に掲げて作ったドラマとのこと。
「刑事同士がニックネームで呼び合わない」
「刑事だけで捜査会議はしない」
「張り込み、聞き込みを音楽に合わせて描かない」
「犯人に感情移入しない」
なるほど。
これも聞いてみればいちいち納得してしまいますね。
確かに、「踊る大捜査線」には、犯人側のドラマはほとんど描かれておらず、刑事たちの日常にスポットが当たっていました。
そして、その刑事たちに大きく陰を落とすのは、警察という大組織。
全国40000人のノンキャリアを仕切っているのは、たった200人のキャリアという極めて厳しい現実です。
はずかしながら、僕もこのドラマを見て、初めて「ショカツ(所轄)」という言葉があるのを知ったクチです。
刑事たちをも多くの人が理解できるサラリーマンとして描くという切り口が、このドラマの新しさでしたし、魅力だったことは理解できます。
映画では、青島刑事の有名なセリフが一斉を風靡しました。
「事件は会議室じゃない。現場で起こってるんだ。」
しかし、実際は「撮影現場」でも起こっていたんですね。
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