一時間ちょっとしかない低予算の小品でしたが、なかなかどうして面白かったですね。
ちょっと、めっけものをしたなという印象です。
監督は、「南極物語」「青春の門」などで、後にビッグネームとなる蔵原惟繕。
この人の監督デビュー作は、1957年の石原裕次郎主演「俺は待ってるぜ」。
「爆薬に火をつけろ」では、小林旭の主演映画も撮っています。
当時の日活の看板スターの作品で、着実に実力を磨いてきた人ですが、本作ではうってかわってスター俳優は使っていません。
主演は、当時の日活の名バイブレイヤー二人。
金子信雄と西村晃です。
華はないけれど、いぶし銀の個性を放つこの演技派二人をW主役に据えて、蔵原監督が挑んだのは日本版フィルム・ノワール。
スター俳優の威光を借りずに、彼がこの作品を作ろうとした背景には、おそらく自らの作家性で勝負したいという目論見があった気がします。
金子信雄は、黒澤明監督の「生きる」で、主役の志村喬演じる渡辺課長の長男役を演じていたのを覚えています。
しかし、なんといっても、彼のキャラクターを決定的なものにしたのは、東映の「仁義なき戦い」シリーズにおける山守組の組長役。
「お前が帰ってきたら、ワシの全財産をくれちゃる」といったそのクチで「そがな昔の事、誰が知るかい」とスッとぼけるケツの穴の狭い極道を演じさせたらこの人の右に出るものなし。
その芸術的なくらいに憎々しい暴力団組長役が、あまりにハマりすぎていて、映画における彼のキャラクターを、ほぼ決定してしまった感があります。
本作は、その「仁義なき戦い」を遡ること13年前の作品になりますが、髪の毛こそまだ黒々としてはいますが、後の山守キャラの片鱗が垣間見えてニンマリしてしまいました。
彼が演じるのは、新潟県直江津市にある地方銀行の支店次長滝田。
本店への栄転が決まっていたのですが、囲っていた愛人へ貢いで、銀行の金に手を出したことを脅迫されるという役どころ。
滝田は再び銀行の金に手を出そうとするのですが、その当夜の当直が、自分の幼なじみの同僚であることを知って、男を誘い出し酔わせしまい、その隙に銀行に侵入します。
しかし、それが未遂に終わると、これは銀行のセキュリティをチェックするためのテストだったと銀行中をまるめこんでしまいます。
おいおい、いくらなんでも無理があるだろうという気もしますが、まあいいでしょう。
この滝田の幼なじみで、うだつの上がらない庶務係仲西を演じたのが、もう一人の主役西村晃。
この人は、後にテレビで「水戸黄門」なども演じていた人ですが、本作の仲西のキャラクターをみていたら、こちらも黒澤明監督の「悪い奴ほどよく眠る」を思い出してしまいました。
あの映画で西村晃が演じたのは、土地開発公団契約課長白井。
悪事を暴かれ、執拗に追い詰められ、最後には発狂するという中間管理職の役でした。
小心者のくせに、ずる賢く、抜けないという、かなりキャラが立った役でしたが、黒澤明のデフォルメの効いた演出も相まって、西村晃の演技はこれまた絶品。
本作における庶務課の仲西が、これまた後の白井課長を彷彿とさせるんですね。これにもニンマリ。
「悪い奴ほどよく眠る」のキャスティングにおいては、この映画での西村晃の演技が、かなり意識されたのではないかというのが僕の見解です。
映画をさかのぼってみるときには、こんな妄想も楽しみたいもの。
仲西は、酔っ払いながらも銀行には戻ってきていて、滝田の犯行には気がついています。
ここは、黒覆面から覗く金子信雄の目と、西村晃のギョロ目の演技が、セリフ以上に二人の関係を物語るという蔵原監督のシャープな演出が光ります。
映画は、脅迫というキーワードで、二人のマウントの取り合いをスリリングに描いていきます。
そしてラストは・・
スター俳優も美人女優も出てこない映画ですが、それでも面白いエンターテイメントは作れるという見本のような映画。
そう言ってしまうと、紅一点の白木マリには失ちょっと礼ですね。
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