シリーズの最新作「デッド・レコニングpart one」が公開中ですが、なかなかの評判のようです。
しかし、クラシック映画好きとしては、最新作には、それほど食指が動きません。
いずれAmazon Primeにラインナップされるでしょうから、そちらは、その時に鑑賞することにいたします。
そこで、今回見たのがシリーズ、第5作目に当たる「ローグネイション」。
これはwowowで録画したものが在庫にありました。
これがなかなか面白かったので、結局これまでのシリーズ6作は、遡って全部鑑賞してしまいましたね。
シリーズは、ここまでのものは全て録画してあったので、何作かはすでに見ていた気になっていましたが、改めて見直すと、鑑賞済みなのは、一作目だけでした。
そんなわけで、今更ながらですが、この人気シリーズを改めて一作目からチェックすることにいたします。
いまや映画界を牽引していると言っても過言ではないほどのビックネームになっているトム・クルーズですが、個人的には、特に彼のファンと言うわけではありません。
しかし、往年のテレビドラマ「スパイ大作戦」は、大ファンでした。
興味が湧くのは、子供の頃に、胸躍らせたスパイドラマを、トム・クルーズがどう復活させるのか。
そんなわけで一作目は、公開当時、それなりに期待して見たことは思い出しました。
テレビ版の「スパイ大作戦」は、突出したヒーロー的主人公は設定せず、リーダーによって集められたメンバーの鉄壁のチームワークで、不可能と思われるミッションを遂行するという頭脳戦をメインにしたドラマでした。
しかし、映画版の「ミッションインポッシブル」は、オリジナル版にはない、ド派手なアクションがふんだんに盛り込まれた映画になっています。
主演のトム・クルーズはこの時、すでに34歳になっていましたから、正直に言えば、アクションをやるには少しばかり、お年を召していました。
しかし、実は本作は彼にとってははじめてのプロデュース作品なんですね。
当然のことながら、気合は入っていたようです。
ラロ・シフリンによるテーマ曲に乗って、導火線が燃えながら展開されるあのオープニングにはいつもワクワクさせられたものですが、これはどうやらトム・クルーズも一緒だったようです。
本作にも多少アレンジを変えて、使用されていましたので、トム・クルーズも、このテレビシリーズには、僕同様、相当な思い入れがあったのでしょう。
彼がプロデューサーなら、いまどきの売れっ子映画音楽作家に、景気の良いテーマ曲を発注することも可能だったはずですが、トム自身はこの元祖テーマ曲には徹頭徹尾こだわったようです。
実は、この映画の完成試写会には、テレビドラマ版のキャストも招待されたようです。しかし、彼らはこの映画を最後まで見ることなく、席を立ってしまったといいます。
「この映画は、自分たちのドラマとはまったくの別物。」
要するにそういうことだったと思いますが、彼らの不満とは別に、世界の映画ファンたちは、この映画にしっかりと合格点をつけました。
結果、この作品の全世界興行収入は、1996年の映画では第5位、スパイ映画としては第1位を記録しました。また、日本では、興行収入66億円で、1996年の洋画実写映画の興行収入第1位を記録しました。(AI調べ)
トム・クルーズが、主演俳優、そしてプロデューサーとして新たな命を吹き込むんだ映画版は、「ミッション・インポッシブル」の新なるスタンダードになったと言って良いのでしょう。
とはいっても、本作にはもちろんのこと、旧ドラマ版へのリスペクトも溢れています。
ドラマ版の売りだったスパイ用の最新ガジェットは、この時代に合わせてパワーアップ。
これは、007シリーズにも通じる、スパイ映画の魅力の王道です。
そして、ドラマの要所要所で、カタルシスを生んでいた、変装マスクを剥ぎ取るシーンも効果的に使われていました。
ドラマ版では、ピーター・グレイブスが演じていたチームのリーダーのジム・フェルプスは、本作にも登場します。演じていたのはジョン・ヴォイト。
しかし、本作での彼は・・・。まあ、これは映画を見てのお楽しみということにしましょう。
そして何よりも、ドラマ版のファンにとって嬉しかったのは、組織からの指令を、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが受け取るシーン。
「なお、このテープは自動的に消滅する。」シュワーのアレですね
映画では、もちろんテープではありませんでしたが、これがきちんと再現されていて、これを見せてくれれば、オールドファンとしてはニンマリです。
そして、トム・クルーズが新たにこの映画に吹き込んだ魅力は、前述したように、なんといっても、彼自身の体を張ったアクション・シーンでした。
映画をヒットさせるためには、この要素は不可欠とプロデューサーである彼が判断したのか、それともそれをやりたいために映画のプロデューサーになったのか。
この辺の事情は不明ですが、ここにトムクルーズが果敢に挑戦したことで、本作がお客を呼べる映画にグレードアップされた事は間違いなさそうです。
本作で、彼が体を張ったシーンとしての白眉は、何といっても、CIA本部に潜入して、極秘データを盗み出すシーンでしょう。
彼を吊り下げたロープが緩んで、触れてはいけないフロア面ギリギリのところで、体を水平にして、体操選手ばりの踏ん張りを見せるシーンです。
007シリーズなら、当然吹き替えスタントマンにお世話になるシーンですが、これを彼は自分自身で演じました。
当然それなりのトレーニングはしたはずです。
この映画のアイコンにもなった映像的にもインパクトのあるシーンでした。
これをやり切ったことで、トム・クルーズは、アクション映画の主演を張れるにふさわしい身体能力を持っていると言うことを、映画ファンたちに認めさせたわけです。
そして、このシーンほどインパクトのあるシーンではなかったのですが、シリーズを語る上で重要な意味を持つスタントシーンがありました。
それは、冒頭のミッションで、仲間全員が殺された後、イーサン・ハントが組織の人物と接触るシーンです。
自分にその嫌疑がかかっていることを悟った彼は、その現場から逃げ出すのですが、その際に、レストランの大きな水槽を爆破します。
あふれる水槽の水を背景にして、彼がその場を逃げ去るというシーンです。
この映画の監督はブライアン・デ・パルマ。
もちろん、この監督を指名したのは、プロデューサーでもあるトム・クルーズです。
彼の作家性を語る上で欠かせないのが、アクション・シーンにおけるスローモーション撮影です。
彼は、このシーンを迫力あるものにするために、演じるトム・クルーズの表情が読み取れる、溢れ出す水を背景にしたスローモーションのカットが不可欠だと判断します。
このシーンには、当初スタントマンが用意されていましたが、監督は現場でトム・クルーズに交渉。
プロデューサーでもある彼は、これを快く了承し、この危険なシーンを自分自身で演じました。
そして、このシーンの迫力を確認して、危険なスタントを自分自身で演じることの絶大なる映画的効果に彼は目覚めることになったというわけです。
いわば、アクション映画スター、トム・クルーズが覚醒したとも言えるべき重要なシーンになったのがこれというわけです。
このシーンをきっかけに、彼はより危険なスタントを自らに課すようになります。
スタントシーンは、以後シリーズを重ねていくごとにエスカレートしていきます。
現在のハリウッドでは、危険なスタント・シーンを主演俳優が演じる事はタブーになっています。
主演俳優に、もしものことがあれば、映画にかかった莫大な制作費が吹っ飛ぶわけですから、映画製作会社がそこに慎重になるのは当然のことです。
ですから、どんなに活きの良い俳優が出てきて、危険なアクションシーンを、自分自身で演じるといっても、通常は製作側がそれを認めないわけです。
しかし、トム・クルーズは本作においては、主演俳優であると同時に製作サイドでもあるわけです。
つまり、どんなに危険なシーンであっても、彼自身がオーケーさえすれば、撮影は可能になるということ。これはこのシリーズの最大のストロングポイントです。
もちろん、それなりの保険はかけられるのでしょうが、彼はここに、シリーズの活路を見出していきます。
体を張ったアクションといえば、サイレント映画の時代には、バスター・キートンがいました。
無表情のポーカーフェイスで、彼が演じる信じられないようなアクションは、後に香港のカンフー俳優ジャッキー・チェンが引き継ぎました。
そして、彼がアクションの一線から退いた今は、派手なアクションを、スタントを使わずに自分の身体で表現できるスターは、もはやトム・クルーズひとりになってしまったと言えるかもしれません。
映画のクライマックスシーンは、爆走する電車とともに、トンネルに吸い込まれたヘリコプターを、トムが爆破するシーンです。
冷静に考えれば「そんなバカな」と言ってしまえるシーンです。
メイキング映像を見ると、撮影は、停車している列車に、特大の送風機で風を送って、列車が走行しているシーンに見立てて、迫力を出していましたね。
もちろん、それをトンネル内の映像と合成していることはわかるわけですが、それなりに迫力あるシーンになっていました。
おいおいそんなバカなと思いたくなるシーンでしたが、アクション映画の真髄とは「そんなバカな」に、限りなく説得力を与えること。
ここに目覚めたトム・クルーズは、この映画の出来上がりに満足はしつつも、次回作で、自分がやるべきことは、すでにイメージしていたかもしれません。
「トップガン」の大ヒットで、青春映画スターとしては、ハリウッドにおいてすでにその地位を獲得していたトム・クルーズでしたが、本作の成功以降からは、彼が演じるイーサン・ハントは、ジェームズ・ボンドや、インディー・ジョーンズと肩を並べる、映画界のビッグアイコンとして成長していくことになります。
さて、次回作には、どんな「そんなバカな」が登場するのか。
コメント