久しぶりに見ました。
この頃の映画は、ほとんど名画座でみていますが、今回見たのはWOWOWで録画してあったBlu-rayです。
監督は、ジェームズ・キャメロン。
この人は、1982年に「Piranha II: The Spawning」の特殊効果監督として雇われましたが、オリジナルの監督が降板したため映画監督デビュー。初めて長編映画の監督を務めることになりました。
しかし、プロデューサーとの対立により、この映画は不本意のまま劇場公開。
そのため、彼はこの作品を自身の監督デビュー作とは認めていませんでした。
1984年、キャメロンは「ターミネーター」のオリジナル脚本を執筆。そして、監督しました。
この作品のアイデアは、彼が実際、1981年にローマで病気になった際の熱に浮かされた夢から生まれたとのこと。
夢の中で見た「火の中から現れるクロームの骨格」のイメージが、映画のクライマックスシーンに直接反映されています。
「ターミネーター」は低予算の独立系映画でしたが、キャメロンの優れた演出により予想外の大ヒット。
映画を見た当時は、これが低予算映画だとは、夢にも思っていませんでしたね。
640万ドルの製作費で、7830万ドルの興行収入を記録したといいますから凄まじい稼ぎっぷりです。
ともかく、当時の印象では堂々たるSF大作に見えました。
もともとキャメロン監督は、デビュー作でも「空飛ぶピラニア」の精巧な模型を、自ら手作りして撮影に使用したというマニアックな経歴の持ち主。
本作においても、クラシックな特撮技術を上手に活かした手作り感が、本作独特の恐怖テイストになっていたようにも見えました。
この成功により、キャメロンは映画界で注目される監督となり、その後の「エイリアン2」(1986年)や「アビス」(1989年)などの大作を次々と世に送り出していきます。
そして、本作でビッグネームになったもう一人の立役者がアーノルド・シュワルツェネッガー。
シュワルツェネッガーは1966年に「ミスター・ユニバース」で準優勝し、翌1967年には史上最年少の20歳でチャンピオンとなボディビルダーです。この成功が彼の国際的な知名度を高めるきっかけとなりました。
彼は後に、その堂々たる筋肉を引っ提げて俳優への転身。
1970年に映画デビュー作『SF超人ヘラクレス』で主役を演じました。
この作品では、まだ「アーノルド・ストロング」という芸名を使用しましたが、当時の彼はオーストリア訛りが酷く、台詞は吹き替えられるなど、俳優としては苦戦していました。
1982年公開の『コナン・ザ・グレート』がシュワルツェネッガーの出世作となり、剣と魔法の物語で彼の肉体美と存在感は広く認められるところとなります。
この作品は興行的にも成功し、続編も製作されました。
そして、本作においてタイトルキャラクターを演じ、一躍世界的スターとなるわけです。
本作の中で、彼のセリフは58パターンしかなかったそうですが、逆にこれが功を奏し、その存在感たるや半端なし。
実は、当初の予定では、ターミネーターの役は、キャメロン監督の盟友でもある俳優ランス・ヘンリクセンが演じる予定だったそうです。
この人は、キャメロン監督のデビュー作で主演を演じていました。
主演をやりながら、キャメロン監督の特撮の小道具づくりも手伝っていたといいますから気心は知れていたのでしょう。
ターミネーターをシュワルツェネッガーが演じるようになったことで、この人は警部補役に回っていますね。
この人の印象としては、同じキャメロン監督の「エイリアン2」で、胴体を真っ二つに引き裂かれるアンドロイド役が強烈でしたが、この「ターミネーター」一作目にも出演していたのは、今回見直して気がつきました。
AI によれば、キャメロン監督は、以下のSF作品から大きな影響を受けたと語っています。
『2001年宇宙の旅』のHAL9000。
『地球爆破作戦』のスーパーコンピュータ"コロッサス"
『ウエストワールド』のロボット"ガンマン406号"
個人的には、『地球爆破作戦』は未見ですが、これに「鉄人28号」の人工知能ロボット・ロビィや、「サイボーグ009」も加えてもらえると嬉しくなってしまいますが、まさかね。
いずれにしても、これらの作品に共通する「人工知能やロボットの反乱」というテーマが、「ターミネーター」のストーリーの基礎となったのは間違いないようです。
本作のあらすじはこうです。
2029年の未来から1984年のロサンゼルスに送り込まれた殺人機械「ターミネーター」(アーノルド・シュワルツェネッガー)が、人類の救世主となる未来のジョン・コナーの母親サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)を抹殺しようと追跡を始めます。
一方、未来の抵抗軍から派遣されたカイル・リース(マイケル・ビーン)は、サラを守るために奮闘するというのが基本ストーリー。
映画はもちろん楽しめるのですが、見終わってハタと正気に返ると頭をよぎる疑問が。
未来のスカイネットがサラ・コナーを殺すためにターミネーターを送るわけですが、これに阻止するためにカイル・リースも過去に送られるわけです。
そのカイルは、やがてサラと心惹かれ合い、二人は結ばれ、ジョン・コナーが誕生する。
つまり、ジョンの存在はスカイネット自身の行動に大きく依存しているわけです。
早い話が、スカイネットがジョンを抹殺しようとしなければ、ジョンは存在せず、スカイネットと人類の戦争も起きなかった可能性があるというパラドックスが生じるわけです。
ターミネーターは、後にシリーズ化しますが、よくよく考えてみると「運命 vs 自由意志」という哲学的テーマを追求するため、どうやら意図的にパラドックスを残しているように思えます。
哲学的意図がどういうことかというと、つまり 人間の抵抗が未来を変える可能性を示す一方で、技術の暴走という警告も同時に描くということ。
物語の都合上、このパラドックスを完全に解決してしまうと、シリーズの継続性が失われるため、あえて矛盾を許容する意図が脚本に仕込まれているわけです。
つまり、タイム・パラドックスの「破綻」は、むしろ物語の核心を支えることとトレードオフの関係といっていいでしょう。
まあ、文句なしの傑作に野暮なことはいいますまい。
それにケチをつけてしまったら、以降のシリーズ作品ではけっしてみられることのない、サラ・コナーズを演じるリンダ・ハミルトンのヌードも、おそらく拝めないわけですから。
いずれにしても、低予算を演出と工夫で大成功に導いたジェームズ・キャメロンの手腕恐るべし。
ある意味では、製作費を湯水のように使って成功させた「タイタニック」よりも、ずっといい仕事をしたといえるのかもしれません。
それは、シュワちゃんにしてもそう。
東宝のビッグアイコンともなっている「ゴジラ」と一緒です。
なんてったって、この一作目のターミネーターが、文句なく一番コワい!
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