今更ですが、「マッドマックス」を鑑賞。
正直言ってこの手の映画は苦手でした。
この映画の公開の頃はすでにいっぱしの映画マニア気取りでしたので、やれヒッチコックがどうのとか、やれ黒澤明がどうのとか、やはりキューブリックはすごいとか、映画ファン王道路線の映画ばかり追いかけていました。
もちろん、知る人ぞ知るA級娯楽作品ばかりではなく、マイナーで怪しげなB級娯楽作品も、エロが期待出来れば見ていましたが、本作のようなカーアクションとバイオレンス系となると、パスすることが多かったですね。
僕自身はそうでもなかったのですが、僕らの世代は、ちょうど今の若者がスマホを使いこなすことをステイタスとするように、車はなくてはならぬ存在でした。
4畳半一間のアパートに住む安月給取りのくせに、誰もが無理をして、マイカーだけは持ちたがったものです。
幸いかな、僕の車への関心は、当時の友人たちの中でも平均以下だったようで、デートの時は、家のオンボロ・カローラを借りて間に合わせていましたね。
覚えているのは、マツダのRX7を買って鼻の穴を膨らませていた友人が、「スゴイ映画あるぞ」と教えてくれたのが本作だったこと。
「七人の侍」も「2001年宇宙の旅」も「裏窓」も、なにがそんなに面白いんだと言っていたようなやつでしたが、この映画だけはベタ褒めでした。
「マックスの乗るV8インターセプターが渋いわけよ。フォード・ファルコン XB GTに、600馬力のDOHCエンジンとスーパーチャージャー搭載してさ。
ルーフとトランクの上にはスポイラーとワイドフェンダー。
サイドパイプエキゾーストは8本。
ボンネットから突き出した大型スーパーチャージャーな。アレは痺れるよ。」
どこでそんな知識を仕入れてきたのか、車のメカにはまるで弱いこちらとしては、友人の放つ意味不明な単語に苦笑いするのみ。
正直、そのV8インセプターとやらを見たところで、とても痺れるような気にはなりませんでした。
しかしながら、本作は大人気シリーズとなり、主役のメル・ギブソンと、監督のジョージ・ミラー一躍スターダムに押上げ、新しいところでは、5作目となる「マッドマックス:フュリオサ」がつい昨年公開されたばかり。
1979年のオーストラリアから放たれた本作は、カーアクションに特化したカルト映画として、今でも根強い人気を獲得しているわけです。
本作が、その後のアクション映画の歴史を塗り替え、今なお絶大な人気を誇る金字塔として語り継がれていることは言うまでもありません。
舞台は、石油資源が枯渇し社会秩序が崩壊し始めた近未来のオーストラリア。
法と暴力の境界線が曖昧になった世界で、特殊警察M.F.P.(メイン・フォース・パトロール)の腕利き警官マックス・ロカタンスキー(メル・ギブソン)は、凶悪な暴走族との戦いに身を投じているという設定。
しかし、ナイトライダー率いる暴走族に、愛する家族を無残に奪われた時、彼は警察官の制服を脱ぎ捨て、復讐の鬼と化します。
改造パトカー「V8インターセプター」を駆り、荒野に轟音を響かせるマックスの孤独な闘いが、荒廃したオーストラリアの原野を疾走します。
とまあ、ストーリーはたったこれだけ。
これは、これまでにも、数多製作されてきた「復讐モノ」のテンプレートを完全に踏襲しています。
アクション映画として目新しい展開は特にありません。但しです。
本作の制作背景で特筆すべきは、約35万ドルという極めて低い予算です。
とにかく、この映画は金がかかっていない。
普通のバイオレンス映画なら、見せるべきシーンをほぼ省略しています。
グロテスクな描写をすべて見せればいいというものではないことは承知しています。
スピルバーグ監督のように、わかっていてそれを演出しているのなら理解は出来ます。
しかし、本作の場合は、見せ場をカーアクションのギリギリのスタントに見せ場を集約するために、あえて不要なグロシーンは、予算節約のために省略しています。
「観客は、メル・ギブソンの表情を見て、何が起きたか想像して」というのが、なんとも潔い。
しかし、この制約こそが、本作を唯一無二の存在へと昇華させた大きな要因となっていることは明白。
唯一特殊効果らしいのが、カークラッシュの際にサブリミナル的に挿入される「目玉飛び出し」カット。
一瞬ですが、これもまた手作り感満載で、驚くというよりは泣かせます。
個人的には、予算のないことをアイデアで埋めるような映画は、個人的にはビンビンにシンパシーを感じます。
豪華なセットやCGに頼るのではなく、オーストラリアの荒涼とした実在の風景や建造物を巧みに利用し、ザラついた終末感をスクリーンに焼き付ける手法はジョージ・ミラー監督の腕の見せ所。
とにかく、本作最大の見どころは、なんといってもCGに頼らない生身のカーアクションとスタント。
時速150kmを超える猛スピードでの追跡劇や、実際に車体を激しくクラッシュさせるシーンの数々は、観る者に本物の恐怖と興奮を与えます。
僕の友人が痺れたのもまさにこれ。
監督ジョージ・ミラーは救急医療の現場で働いた経験があるとのことですが、最小限で見せる負傷の描写に生々しいリアリティが付与されているのはその経験故でしょう。
「マッドマックス」は、35万ドルという格安の製作費で、1億ドルを超える全世界興行収入を記録しました。
これは「予算と興行収入の差が最も大きい映画」としてギネスブックにも掲載されたほどです。
この成功は、口コミの力がいかに大きいかを証明すると同時に、斬新なアイデアと作り手の情熱が、莫大な予算を凌駕しうるということを映画界に示したことが本作最大のストロング・ポイントでしょう。
本作は、70年代オーストラリアの社会不安を背景にしながらも、復讐という普遍的なテーマを、圧倒的なスピード感とバイオレンスで描き切ったことで、世界中の観客に衝撃を与えました。
「オーストラリアン・ニューウェーブ」の代表作として、また、その後の「世紀末」をテーマにした作品群の先駆けとして、映画史に不滅の名を刻んでいることは間違いのないところ。
本作は、単なるアクション映画ではなく、作り手の創意工夫と情熱が奇跡を生んだ、映画製作の金字塔です。
本作を若かりし頃に、素通りしていたことは、映画ファンとしてはまさに不徳の致すところ。
マイカーもいまは、軽トラになってしまいましたが、今更ながら大型スーパーチャージャーでも装備して、ブイブイといわせてみましょうか。
あの頃、マツダRX7に乗っていたあいつは、今頃どんな車にのっているのやら。
まさかのV8インセプターだったら、驚いて目玉が飛び出るかも。
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