凶暴な男、ここに眠る。
北野武の監督第一作『その男、凶暴につき』の続編として位置づけられたこのこの作品。
『ソナチネ』は、ビートたけしが「北野武」名義で監督した第4作目の日本映画。1993年の作品です。
淡々とした展開、そして、突然訪れる圧倒的な暴力シーン、ストイックなカットの連続、独特の呼吸、リズムという、いわゆる北野武タッチといいますか様式というものが、この作品でほぼ完成しています。
実はこの映画、公開当初、それ以前の北野映画と同様に非常に難解な映画と受け取られ、興行的には大コケ。
北野監督が、自分のやりたいことに徹底的にこだわった結果でしたが、まだ彼の才能は、評価されなかったということでしょうか。
しかし、成績のよくない子ほど可愛いという心理はあるようで、北野監督自身は、この作品の評価にこだわります。
そこで何をしたかといえば、海外への持ち出し。ロンドン映画祭やカンヌ国際映画祭に、この作品を出品したんですね。
そして、これがあたります。この作品は、欧州を中心に高く評価され、「キタニスト」とよばれるファンを世界的な規模で産んで行くきっかけとなります。
日本で評価されなかったこの作品を、海外での評価をえることでその後のキャリアにつなげていったプロダクション側の判断がお見事だったといえましょう。
北野監督としては、この作品から、「自分のやりたいこと」をやって、この商売が続けられるという自信をもったのだと思われます。
海外からの評価が、キャリアアップにつながったという意味では、黒澤明監督の「羅生門」と同位地に当たる作品といえるかもしれません。
暴力と、それと背中合わせのオフビート笑いを絶妙に配置した物語。
全篇を貫く凶暴性と、ヤクザ世界で生きる男のどうしようもない孤独と哀愁とユーモアの絶妙なコントラスト。
北野監督は、この作品の跡で、あのバイクでの事故を起こし、生死の境を漂って、やがて生還することになりますが、もし彼が、あの事故でなく亡くなっていたとしたら、この作品は、まさに彼の「遺言」だったかもしれません。
映画の中での彼のセリフ。
「あんまり死ぬのを怖がってると、死にたくなっちゃうんだよ」