さて、研修二日目の午後。
本日お世話になったのは、S牧場。
T牧場は、つなぎ牛舎の牧場でしたが、今回研修させていただいたのは、ロボット牛舎の牧場。
ここでは、搾乳、餌やり、ウンチの処理がすべて全自動牛舎です。
ここで行った実働は、牛たちのベッドメイクと餌の片付けだけ。
後はすべて、スイッチ操作のオートメーション牛舎です。
まず、一番最初にやったのは、残った餌の片付け。
餌やりは、ロボットが全自動で行います。
次に、牛たちのベッドメイク。
T牧場では、藁が敷かれましたが、ここでは木屑。
これを牛たちの寝床に、薄く敷きます。
そして、僕がセッセと彼女たちの寝床の準備をしている間にも、2機のロボット搾乳機には、さっそく雌牛たちが行儀良く整列。
こちらから交通整理をしなくても、ちゃんと、一匹ずつ、自分から入っていきます。
所定の位置に牛が立つと、まず口元には配合飼料が出てきます。
彼女たちがそれを食べることに夢中になっている間に、センサー付きの搾乳ロボットが腹の下を徘徊。
それが終わると、センサーが赤い光が照射されて、4つの乳首をさがします。
みつけたら、4つの搾乳ポンプが、一個ずつ乳首をパクリ。
うるさがる牛がポンプを蹴っ飛ばしても、すぐに元の位置に復活して、乳首を捕らえるまで腹の下を動き回ります。
4つの乳首が全部ポンプに収まると、搾乳開始。
マシンのコントロールパネルには、4つの乳首の搾乳量がデジタルカウント。
見ていると生乳が出る牛で25ℓ。
出ない牛だと、12ℓくらい。
平均にすると、20ℓくらいでしょうか。
その雌牛が、この牛舎には、およそ100頭とのことですから、1回の搾乳での総量は、およそ2000ℓ。
これが朝晩と2回ですから、1日の搾乳量は、およそ4000ℓ。
僕たちにはお馴染みのスーパーの1ℓパックにすれば、約4000本が、1日の搾乳料ということになります。
自宅近所のヤオコーで、牛乳一本198円。
このうち酪農農家に渡るのは、100円と言います。
従って、1日の売り上げは、この牛舎で40万円。
牛の搾乳は、一日たりとも休みなしに行われますから、年間の売り上げは、単純計算で1億4600万円ということになります。
普通に考えれば、野菜作りよりはるかに利益率の良い仕事です。
但し、年間休みなしが前提の酪農業。
牧場経営者のみなさんが、休めるか休めないかは、酪農ヘルパーの存在にかかっているということになります。
昨日の研修で、ミルカーによる搾乳を経験していたので、ロボットの動きには興味津々。
日々の習慣で動く牛たちの修正を、上手に活用したシステムだと感心しきりです。
全自動は、搾乳だけではありません。
餌やりもそう。
巨大な餌やりマシーンが1日に二回、レーンを移動していきます。
そして、もうひとつ。
牛舎の大切な仕事である牛糞処理。
これも、1日に何回か、チェーンでゆっくりと移動する木製のウイングが、一気に牛糞を、牛舎後方の巨大ポケットまでさらっていきます。
お食事中の方はたびたびすみません。
画像をお見せします。お気を悪くなさりませぬよう。
牛は、草食ですから、それでも匂いはそれほどでもありません。
牛だけではありません。
人間だって、おしっこもすればうんちもします。
しかし、都会に住んでいると、まるでそんなことは忘れてしまうほど、綺麗にかくされて処理されていきます。
しかし、人間の数より多い牛たちと共生していく酪農業なら、これは真正面から付き合わなければいけないこと。
生き物を扱う産業なら、「ウンチの処理」は、当たり前の話です。
その管理の対価として、牛たちからはミルクを与えてもらうというのが酪農という仕事。
文字通り、綺麗事ではありません。
このロボット式牛舎では、人間は搾乳作業は一切しません。
やるのは搾乳ロボットの清掃だけ。
ベッドメイクや、餌の片付けが終わったら、後は、ひたすらコントロールパネルとにらめっこです。
100頭近くの牛がいますから、なかには搾乳ブースに、入ってここない牛もいます。
もちろん、それはコンピューター管理ですから一目瞭然。
サボっている牛は、ロボットが、牛たちが耳にぶら下げているタグで教えてくれます。
本日一緒だったのは、ヘルパー課長。
彼はゴム手袋に、そんな彼女たちのタグ番号を書き込んで、牛舎にダッシュ。
そして、その管理番号の牛たちをみつけては、ブースへリードしていきます。
僕もそのお手伝いをしますが、いい匂いがするのか、好奇心の対象なのか、牛たちには、ペロペロと舐められっぱなし。
課長曰く、
「舐められるだけならいいですが、本当に気に入られると、乗っかってこられますから、気をつけて。」
いくら、雌牛とはいえ、こちらにもそんな趣味はありませんので、そこは最新の注意を払いました。
つなぎ牛舎の牛に比べて、ロボット牛舎の牛は、自由に歩き回れる分、ストレスフリーのように思われます。
T牧場では、雌牛たちのボディにいろいろな「業務連絡」が、直接書き込まれていましたが、ここではそれもありません。
ロボット搾乳よりは、ミルカーを使った搾乳の方が、牛たちには優しいようにも見えますが、これも慣れの問題。
牛たちの習慣性を考慮すれば、こちらの方が快適だという牛もなかにはいそうです。
昨日のT牧場の倍の頭数の牛が、ロボット牛舎では、作業オペレーター実質一人。
T牧場の場合は、2名でした。
このあたりのコスト感覚は、経営者によるでしょうが、ロボット搾乳機は一基2〜3千万円。
これが、S牧場の場合は2基。
つまり、4〜5千万円。
酪農経営者の後継者不足、技術者不足、経験者不足が深刻であるが故に、それを解消するためにうまれたスマート酪農が、ロボット牛舎です。
まだ、別海町でも導入している件数は少ないと聞いていますが、今後は若い経営者を中心に増えていくことは間違いなさそうです。
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