さて、「スター・ウォーズ」シリーズ全9作品を観終わったら、真っ先に見直したいと思っていた映画がこちら。
1958年黒澤明監督作品「隠し砦の三悪人」です。
黒澤獲得としては、初のシネマスコープで撮られた作品。
この映画が、若き日のジョージ・ルーカスを大いに刺激して、あの「スター・ウォーズ」のコンセプトが作られたというのは、かなり有名なトリビア。
千秋実と藤原鎌足の演じた太平と又七の凸凹コンビが、C3POとR2D2のモデルになっていたのをはじめ、男勝りのレイア姫のキャラも、雪姫が下敷きになっています。
戦いに敗れた秋月家の生き残りが逃げ延びた山中の隠し砦。
ここから、世継ぎの姫と、軍資金の金塊を持って、友軍早川家の領地まで敵中突破するという、至極明快な冒険活劇。
テーマ性のある作品が多かった初期の黒澤作品ですが、「七人の侍」以降は、娯楽作品が増えていきます。
しかし、娯楽作品とはいっても、その底辺に流れるヒューマニズムは、黒澤作品ならでは。
この作品の脚本チームは、合計四人。
菊島隆三、小國秀雄、橋本忍、そして黒澤明。
黒澤監督の提出したお題に対して、三人がそれぞれのアイデアで脚本を書き、よく出来たものを採用していくというスタイルで作られていったそうです。
雪姫を演じた上原美佐は、この作品が映画デビュー。
役者としては、まったくの素人だったようですが、演技がストレートになることが、かえってこの男勝りのお姫様のキャラにはドンピシャ。
道中では、口が聞けないという設定にしたことも、彼女を活かす秀逸なアイデアでした。
家臣・真壁六郎太を演じたのは、もちろん三船敏郎。
今回の三船の最大の見せ場はこれ。
逃げる敵の兵を馬で追うシーン。
疾走する馬に乗ったまま、刀を大上段にかざして追い、次々に切り倒すという曲芸のようなアクションを、三船はスタントなしで演じています。
それから、藤田進演じる敵の侍大将・田所兵衛との、槍による一騎討ち。
この殺陣が、「スター・ウォーズ」では、ライトセーバーのチャンバラになったというのは想像に堅くない。
ちなみに、ジョージ・ルーカスは、当初スター・ウォーズのダース・ベイダー役(オビ=ワン・ケノビ役だったかな?)に、三船敏郎をオファーしていたそうです。
しかし、残念ながら、まだその頃は市民権を得ていなかったSF作品に難色を示した「世界の三船」は、このオファーを蹴ってしまいます。
ところが、「スター・ウォーズ」は、世界中で空前の大ヒット。
それまではB級扱いだったSF作品を、一級のエンターテイメントに押し上げてしまいます。
悔しい思いをした彼は、その後、スティーヴン・スピルバーグのコメディ「1941」には、出演することとなりますが、ご存知の通り、こちらの方は大コケ。
願わくば、三船敏郎のダース・ベイダーは、見てみたかった! 残念。
少なくとも、過去に3回は見ているこの作品ですが、今回見て、思わずウルっときてしまったのが、樋口年子。
敵方の城下町の木賃宿で、人買いに売られそうになっていた百姓娘を演じていました。
雪姫が、六郎太に命じて、彼女を買い戻します。
それに恩義を感じた彼女は、家には帰らず、無理やり一行についていきます。
城下の立て看板で、彼女が秋月の姫だと知った彼女。
以降は、我が身を顧みずに、雪姫を命がけで守ろうとする健気さ。
処刑される覚悟を決めた彼女の横で、田所兵衛に「私が姫です!」と叫ぶ彼女。
今回は、こんなシーンで涙腺崩壊。
歳をとってくると、映画の感動の仕方も変わってくるもんです。
ちなみに、この映画のタイトルですが、当初はいったい誰が「三悪人」なんじゃいと思ったりしていました。
「敵中突破秋月城」みたいな方が、この映画らしいのではないか。
でも、これは後に、黒澤明脚本による盟友谷口千吉監督の作品「銀嶺の果て」の、元々のタイトルが「山小屋の三悪人」であることが判明して納得。
ちなみに、この映画で俳優デビューしたのが、三船敏郎で、翌年の「酔どれ天使」から、黒澤監督との黄金コンビが始まります。
改めて、見直しましたが、この映画の冒頭とラストの構成は、確かにしっかりと「スター・ウォーズ」に受け継がれていましたね。
やはり何度見ても、面白い映画です。
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