雨月物語
日本映画屈指の名作ですが、これもジャパニーズ・ホラーですよね。
上田秋成の怪談を、名匠溝口健二が、流麗なカメラワークで、モノクロ映画の美しさの頂点を極めた作品。
なんといっても、当時の大映の誇る名カメラマン宮川一夫の仕事が光ります。
雨月物語といえば、小舟で霧立ち込める川を進む水墨画のようなあの幻想的なシーンが白眉ですが、あのシーン以外でも、見どころ満載。
特に、移動カメラの職人技が冴え渡りますね。。
亡霊若狭(京マチ子)の色香に迷った源十郎(森雅之)が、朽木の屋敷で岩風呂に浸かるシーン。
若狭が着物を解こうとするとカメラが、横にスルスルと移動。
そのままのスピードでオーバーラップしていきながら場面変換。
カメラがパンすると、河川敷のような広い庭で、若狭の打つ鼓で戯れる二人の姿。
遠くの山まではっきり焦点があった見事なロングショットのパンフォーカス。
溝口監督は、そのカメラの横移動だけで、二人の濃密な時間の経過を表現してしまいます。
そして、その異界から戻った源十郎が、我が身一つで帰った我が家。
しかし、家には誰もいません。
妻宮木(田中絹代)の名前を呼びながら、家の中を探し回る源十郎。
家の中から、源十郎が一度外に出ると、今度はカメラがゆっくりと家の中を移動して戻ります。
すると、さっきはいなかったはずの宮木が、囲炉裏の前に座って鍋の用意をしているので観客はビックリ。
源十郎が家に入ってからここまでが、全てワンカットの移動撮影だから成立するシーンです。
観客は、宮木がここに戻る途中で敗残兵に刺し殺されているのを知っています。
宮木が亡霊であることを、カメラの横移動だけで表現してしまう職人技。
溝口映画で、カメラが動くときは要注意です。
何か仕掛けてくるので、こちらは目が離せません。
ラストシーンも見事でした。
残された子供と、また以前の生活を始める源十郎。
子供が、亡くなった宮木の墓に駆け寄るのに合わせてカメラが横移動。
そして、子供が手を合わせると、カメラはそのままスルスルと上に登り出し、家族が幸せに暮らしていくのを予感させる農村の風景を俯瞰してエンドマーク。
名作の香りがプンプンする、日本映画に一番力のあった時代の代表作。
では、ホラー映画としてはどうか。
京マチ子は、特にモンスターメイクをするわけではありませんでしたが、その妖艶な美しさと、目力で、亡霊の恐ろしさを見事に醸し出していました。
しかし、それよりも、僕が怖かったのは乳母の右近でした。
怯える源十郎に向かって、右近はこう一喝します。
「契りなさい!」
おー怖。
演じているのは、毛利菊枝という人。
この役者さん、絶対どこかでゾッとさせられた覚えがあると、記憶を呼び起こします。
たちまちピンと来ました。
テレビドラマで見た「八つ墓村」です。
金田一耕助を演じたのは、古谷一行。
彼女が演じたのは、小竹婆さん。
あれは怖かった!