読書「百姓の夢」小川未明
タイトルに惹かれて、「青空文庫」の中からチョイス。
1923年に書かれた、童話作家・小川未明の短編です。
くたびれて、もう農作業では使えなくなった飼い牛と百姓のお話。
役に立たなくなった老牛を売ってしまおうと、百姓は町出かけますが、買い手はつきません。
仕方なく、連れて帰ろうとするところに降り出した雪。
一面の雪化粧で、百姓は道に迷ってしまいます。
途方に暮れた百姓は、牛の背中に乗って、牛に帰路を預けることにします。
ゆっくりゆっくりと歩く牛。
夜更けに、牛は百姓の家に辿り着きます。
この夜ばかりは、まぐさをいつもより多く与える百姓。
しかし、町で牛が高く売れるという評判を聞いて、百姓は結局また牛を連れていくことにします。
牛は、百姓が思っていたよりも高く売れ、上機嫌の百姓は街で一杯。
いい気持ちで帰路につきましたが、千鳥足でフラフラしているうちに、大きな木の根に座って一休み。
気持ち良い春風に吹かれて、百姓はウトウト。
そこで、彼が見た夢は・・。
ちょうど去年の今頃、北海道の別海町に、酪農の研修に行ったのを思い出していました。
まるまる一週間、酪農農家の搾乳作業を研修させてもらいました。
人口よりも多いというのが別海町の牛の数。
最初はこちらも緊張いたしましたが、思ったよりも人懐っこいのが牛舎の雌牛たち。
いつもと違う「匂い」のよそ者が牛舎に来ると、彼女たちは最初は遠くからじっとこちらを観察しています。
やがて、こちらが自分に危害を加えないことが分かってくると、その距離はジリジリと接近。
小一時間も経つと、いつの間にか、背後に忍び寄って、お尻をペロペロと舐め出してきます。
牛舎の中では、従順に、こちらのいうことを聞いて、お行儀よく搾乳の列に並んでくれる彼女たち。
ビビリなくせに、好奇心旺盛で、決して喧嘩はしない平和的な彼女たち。
普通に考えれば、あの巨体なら、その気になれば、人間が敵うはずはありません。
しかし、そんなことは、露程も思っていないのがなんとも意地らしい。
一週間も経つ頃には、こちらも、そんな雌牛たちに少なからず感情移入。
そのつぶらな瞳に、愛情らしきものも湧いてきてしまいました。
しかし、それをお世話になった、搾乳ヘルパーの管理会社の部長に言ったら、しっかりとこう言われました。
「それでは、北海道で酪農は無理ですよ。残念ながら、牛はここではあくまでも経済動物ですから。」
年老いて乳が出なくなった牛はどうなるのか。
大正の小川未明の時代は、牛は町に売られていきましたが、令和の今の世は、そのまま屠殺場行きです。
お金を産まない牛たちには、厳しい運命が待っているわけです。
酪農に夢を抱いて、東京からやってくる若い女の子が、一年もするとみんな辞めていくとその部長さんから聞きました。
彼女たちの気持ちは理解できる気がします。
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