バスター・キートンといえば、チャーリー・チャプリン、ハロルド・ロイドと並ぶ、アメリカの三大喜劇俳優の一人です。
本作は、キートンの最高傑作とも言われる1925年製作のサイレント映画ですが、今の今まで、この映画は映画館で見たとばかり思っていました。
本作のクライマックスとも言える、斜面を転がってくる大小の岩石から逃げ回るシーンを、ハッキリと、有楽町の映画館のスクリーンで見た記憶があるんですね。
しかし、どうやら、それは本作の予告編だったようです。
僕が中学生だった1970年代前半、チャップリンに続き、バスター・キートンの映画のリバイバル上映も数本あったんですね。
もちろん、その中には、本作も含まれており、その予告編を見た記憶と判明しました。
というわけで、本作は今回初めてちゃんと鑑賞することができました。
同じく全盛期の頃の、「キートンの大列車追跡」も、つい先日最近Amazon プライムで見たばかり。
晩年の彼の姿も、チャップリンの「ライムライト」で確認しました。
キートンといえば、「笑わない喜劇俳優」としてつとに有名です。
そして、その体を張ったギャグは、もはやスペクタクルの域。
バスター・キートンを敬愛するジャッキー・チェンが、自作において、キートン・ギャグへのオマージュとも言えるアクション・シーンを度々再現していることは有名な話。
今回、本作の彼の演技を見ていて、個人的に思い当たったのが、ウッディ・アレンです。
先日、彼の作品「アニー・ホール」を見たばかり。
彼は、スタンダップ・コメディアン出身ですから、アクション系ギャグこそないのですが、あの常に困ったような「顰めっ面」。
そして、時折見せる、観客に向かって助けを求めるようなあのカメラ目線。
その雰囲気がウッディ・アレンと共通するところがあるように思いました。
もちろん、ウッディ・アレンも、コメディアンの大先輩として、バスター・キートンはリスペクトしていたようで、彼の作品「カイロの紫のバラ」で、ヒロインのミア・ファローが、映画の中の登場人物と同化していくというアイデアは、キートンの1921年の映画「探偵学入門」が元ネタにしています。
そして、あの「動き」で笑わせるスペクタクル・アクション系のギャグを、日本で正統に引き継いでいたのが、我らがドリフターズでしょう。
「8時だよ!全員集合」で、舞台の上で車が飛んだり、セットが破壊されるギャグは、バスター・キートンの作品からの影響がかなり大きかったということは、今なら伺い知れます。
24時間内に、嫁をゲットできないと、遺産を相続できないという本作の主人公。
最後は、何百人(何千人?)の花嫁に追われて、野を越え、山越えという、一大モブ・シーンが繰り広げられる展開。
プロポーズをしようとして追っかけて顔を見たら黒人だったので驚いて逃げたり、声をかけた女性が、ユダヤ人だったので(ヘブライ語を使っていた)スゴスゴと引き下がったりと、今の人権感覚から言えば、かなりキワどいギャグがあるのですが、映画が作られた時代を考えれば、この辺りは目をつぶりましょうか。
何しろ、今から一世紀も前の映画です。
そうそう、キートンの事務所の秘書役で、ジーン・アーサーが出ていました。
あの西部劇の名作「シェーン」で、ジョーイ少年の母親役をやっていた女優です。
1900年生まれの彼女は、この映画出演時25歳でしたから、「シェーン」の時には、すでに53歳だったんですね。ちょっとビックリ。
晩年は、全盛期の人気も凋落し、不遇だったと伝えられることの多いバスター・キートン。
しかし、彼の全盛期の長編映画は、その後何度も再評価され、リバイバルされています。
彼は生涯に三度の結婚をしていますが、最後の妻になった女性は、23歳年下のダンサー出身のエレノア・キートン。
彼女は、キートンが亡くなるまで添い遂げますが、二人のツーショット写真を見る限り、キートンは、幸せそうなんだよなあ。
相変わらずの、顰めっ面ではあるのですが・・
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