さて昭和58年です。
モラトリアムを延長しても、結局またしてもろくな就職活動はしなかったので、四月から働き出したのは、かなりブラックな英会話の教材を販売する会社でした。
とにかく、この年は、入社早々から、日本全国を飛び回る慌ただしい一年でしたが、営業の成績はそれほど悪くありませんでした。
ただし、その会社自体が、入社後一年半くらいで経営が次第に怪しくなってきて結局そのまま倒産。
あまり良い思い出のない会社でしたが、収穫がひとつだけあります。
心に残る恋愛をしましたね。
この会社に、後輩として入社してきた女性です。後輩とは言っても、僕よりも2つ年上でした。
実はこの頃、かなりのヘビーローテーションで聴いていたアルバムがあるんですね。
佐野元春の二枚目のアルバム「HEART BEAT」です。
とにかく、このイキのいいロックン・ローラーの歌いっぷりがなんともカッコよくて、ひたすらその歌い回しをコピーしていました。
カラオケなどまだない時代ですので、伴奏は自分でやらないといけません。
ギターなら、コードくらいは抑えられました。
シンコー・ミュージック(この会社は入社試験を受けましたが落とされました)の楽譜を買ってきて、ギターのコード進行も頭に入れます。
そして、そこそこ演奏まで出来るようになった頃、彼女と出会うわけです。
何度かデートしたところで、そのチャンスは訪れます。
彼女が悩みがあるので、相談に乗ってくれというわけです。
その内容は、僕のような軽薄な人間が軽々しく答えられるものではありませんでした。
答えられない代わりに、23歳の青年は、25歳の彼女を車に乗せて、千葉県の片貝海岸まで連れて行ってしまいます。
車には、ギターも積んであります。
何も言わない彼女を横に座らせて、漆黒の海岸で歌ったのは、まさにこういう時のために仕込んであった、とっておきの佐野元春ナンバー「HEART BEAT 街のナイチンゲールと小さなカサノバのバラッド」。
日頃の練習の甲斐あって、その時はほぼ完璧に歌い切りました。
しかし歌い終わっても、彼女は何も言わずに黙って海を見ているばかり。
次の展開を頭で妄想している身としては、ちょっと迂闊に動けない空気でした。
波の音だけが、右の耳から左の耳を通り抜けていきます。
長い沈黙の後で、彼女が一言だけこう呟きました。「バカ」
というわけで、このお話はここまで。
還暦を過ぎたオヤジが、今更語る話でもないので詳細は割愛。
後は、勝手に想像してください。
ただ、しばらくして、この年に発表された佐野元春のベスト・アルバム「NO DAMAGE」のレコードを買ったと、彼女が教えてくれました。
というわけで、この年のヒット曲で、今でも歌えた曲は以下の通り。
クリスマス・イブ(山下達郎)
I LOVE YOU (尾崎豊)
時をかける少女(原田知世)
探偵物語(薬師丸ひろ子)
初恋(村下孝蔵)
SWEET MEMORIES (松田聖子)
秘密の花園(松田聖子)
天国のキッス(松田聖子)
ダンディライオン〜遅咲きのタンポポ(松任谷由美)
守ってあげたい(松任谷由実)
全38曲
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