異常な酷暑の一日を終え、こんな日に観る映画は何かと考えていたら、この映画が頭に浮かんできました。
これまでにも、何度見たかわからない映画ですね。
初めて見たのは、9歳の時。はっきりと覚えています。
「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」の併映作品でした。
少年期はコテコテのガメラ・フリークでしたので、もちろんお目当てはガメラでしたが、一緒に何度も見ているうちに、こちらの妖怪キャラクターも、しっかり頭に刷り込まれてしまいました。
妖怪といえば、なんといっても、水木シゲルの「ゲゲゲの鬼太郎」。
このアニメが、放映開始されたのが、まさにこの年でしたので、子供たちの間では妖怪も大流行。
そのブームに乗って、大映の妖怪シリーズは、この後「妖怪大戦争」「東海道お化け道中」と、都合三本が作られていますが、圧倒的に、シリーズ一本目にあたる本作の印象が強烈でした。
大映京都は、1966年にも、時代劇特撮モノの傑作「大魔神」三部作を公開しています。
こちらは、子供向けには作られておらず、内容もかなり重いものでしたが、この「妖怪」シリーズは、ユーモアと恐怖のバランス感覚が絶妙。
本屋の息子でしたので、もちろん店頭に並んでいる妖怪図鑑もしっかりチェック。
「ぬらりひょん」「油すまし」「河童」「一つ目小僧」「火吹き婆」「土転び」などの妖怪名もしっかりとインプットしていました。
しかし、多感な頃に繰り返し見た映画というものは恐ろしいもので、どの場面もしっかりと覚えているものですね。
次にどの妖怪が現れるかと言う展開も、下手をすればセリフまでも覚えていて、これには我ながらビックリ。
映画のラストのセリフもちゃんと覚えていました。
「世の中には、ジンチで測れぬ不思議なこともあるもの。」
子供の頃は、ジンチの意味がわかりませんでしたが、今なら「人智」とわかります。
ホラー映画は、この後にも星の数ほど見てきましたが、これほどクリアに内容を覚えている映画はそうはありません。
やはり、多感な頃に観た映画は、その刷り込まれ度合いが半端ではない。
CGやVFX技術の進歩で、相当ドギツク、ショッキングなシーンに慣れた今の子供達には、本作程度の特撮は、ゆるくてかったるいのかもしれませんが、是非このテイストは感じて欲しいもの。
そこで、今回はストリーは無視して、映画の中から、子供心に思わずドキリとしたシーンや、ゾーッとしたシーンを、イラストにしながら抜き出してみました。
まずはとびっきり強烈だったの大首です。
映画では、都合二回登場します。
とにかく、画面いっぱいに、白粉に真っ赤な口紅と、紅い髪を振り乱して、「アハハ」と笑いながら迫ってくるシーンは強烈。
おいてけ堀から出現するシーンも強烈でしたが、妖怪大集合の豊前守の屋敷で登場するシーンもさらに強烈。
妖怪たちに襲われて発狂寸前の悪党大名豊前守が、逃げようとして開けた障子の向こう側に・・
お次は、ろくろっ首。
但馬屋で催された百物語の余興で、語られる怪談でした。
小泉八雲の「怪談」にも登場する、首がスルスルと伸びるお馴染みの妖怪。
知名度から言えば、エース級でしょう。
首が伸びるシーンは、古典的なブラックシアター方式で撮影されているのですが、調べてみるとこの妖怪を演じていた女優というのが、ちょっとすごい人でした。
毛利郁子という人です。
若かりし頃は、グラマー女優として活躍していた方のようなのですが、なんとこの映画の制作された翌年に、痴情のもつれから、当時付き合っていた男性を刺し殺して、殺人犯として逮捕されているんですね。
殺人歴のある女優というのは、ちょっと記憶にありません。
それを知った上で、改めてこのシーンを見ると、浪人二人が殺されるシーンも、なんだか妙にリアルでゾゾっとします。
「手についた血が落ちなくて・・」
そんなセリフがあるのですが、もしかしたら、リアルな殺人事件の後で、彼女がそんなセリフを言っていた可能性も・・
のっぺらぼうも登場します。
配下の若い衆がみんなのっぺらぼうになって、慌てふためいて但馬屋に戻ってきた重助が裏口でバッタリと会うのがバカ息子の新吉。
重助を演じるのは、ドラマ「悪魔くん」の、メフィスト役で子供には人気のあった吉田義男。
新吉を演じるのは、関西の人気コメディアンだったルーキー新一。
この人も、この映画の後で、暴力事件を起こしてコケちゃった人です。
「どんな妖怪が出た?」と聞く新吉に、「鼻も目もないのっぺらぼうが」と説明する重助の前で、新吉がゆっくりと一回転。
「こんな顔かい❓」
ユーモラスな妖怪も登場します。
一本足のカラカサです。
新吉が壁に描いた落書きが、抜け出してきて、一緒に戯れるというシーン。
アニメと実写を巧みに合成した特撮は、なかなかに味があります。
音楽も秀逸で、調べてみたら担当は渡辺宙明という人。
時代劇のみならず、後には「人造人間キカイダー」や「秘密戦隊ゴレンジャー」の音楽も担当した人ですね。
アニメでは、「マジンガーZ」や「みなしごハッチ」などの仕事もしている人なので、彼の音楽は知らず知らずに聴いていたものも多くあると思われます。
僕の世代で、懐かしいものとしては、「忍者部隊月光」も、彼の作品でした。
しかし、なんといっても、この映画で、僕にとってダントツにインパクトのあった妖怪は白粉婆。
ひどく腰の曲がった、破れ笠に、白い杖の老婆が妖怪白粉婆。
妖怪にありがちな威嚇的パフォーマンスは一切なく、ただ白粉をした老女が、じっと前を見つめながら歩いてくるだけ。
その薄気味悪さが、半端じゃなかったですね。
調べてみたら、演じていたのは山村嵯都子という女優でした。
1932年生まれということですから、この映画の撮影時には、まだ36歳と言うことになりますが、いやいやとてもそんな若くは見えません。
どこからどう見ても、70歳以上の老婆です。
このころの映画には、こういう知られざる隠れ名優が多くいたんですね。
隠れ名優といえば、この映画にはもう一人。
それは、荒木忍という人です。
彼が演じたのは、妖怪ではありません。
おいてけ堀で釣りをする浪人を嗜める老僧の役です。
「この池で殺生はいかん。釣った魚は置いていきなされ。」
そのセリフを、歯のないフガフガな口で言うのですが、そのインパクトが強烈。
この人は、実際に撮影当時77歳のご老人でした。
調べてみると、1920年代から活躍している映画界の叩き上げ俳優です。
この映画の公開された翌年に亡くなっていますね。
本作を見終わってみると、ビジュアルにな妖怪たちや、主演の藤巻潤や高田美和よりも、彼の方が妙に印象に残っていたりします。
本作の白眉は、なんといってもラスト近くの、妖怪たちの行進ですね。
百鬼夜行を、見事にビジュアル化した、特撮映画史上に残る屈指の名シーンと言ってもいいと思います。
悪者を退治した妖怪たちが、意気揚々と、夜明けの空に消えていく幻想的なシーンは、まさにジャパニーズ・ダーク・ファンタジー。
これは映画ファンなら一見の価値ありです。
是非ご覧になってみてください。
この季節、怪談話で盛り上がることも多いと思いますが、その際は是非とも、つきもの落としのまじないだけはお忘れなく。
それを忘れると、ホラそこに・・
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