ゴジラの怪獣対決シリーズで、ゴジラの名前が後に来るのは本作だけです。
(訂正。「モスラ対ゴジラ」があるとのご指摘をいただきました。陳謝)
巨大怪獣としては、先輩格となるキングコングに敬意を表したというところでしょう。
キングコングの権利を所有するRKOとライセンス提携をして、鳴り物入りで製作されたのが本作。
僕がこの映画を初めてみたのは、大宮東宝白鳥座だったことは今でも覚えています。
東宝チャンピオン祭りでしたね。
Wiki によれば、本作は1970年と1977年に再上映されているとのことですが、僕が見たのは1970年です。
当時は11歳で小学校五年生。怪獣オタク真っ盛りの頃です。(もちろん当時オタクという言葉はありませんが)
併映だった「巨人の星」や「アタックNo.1」もうっすらと覚えています。
但し、この時の上映はWiki によれば、96分の本編を73分に縮めた短縮版。
なので、完全版を見たのは、今回が初めてかもしれません。
東宝30周年記念の娯楽大作なので、当時の東宝の人気スターがキャスティングされています。
高島忠夫、藤木悠、佐原健二などが男優陣。
いま改めて若い頃の高島忠夫を見ると、二人の息子(政宏、政伸)のDNA元であることが歴然。
似てるんだよなあ。
藤木悠とのコンビが、まるでハリウッドのコメディを見ているようで、本作のムードメーカーになっていました。
女優陣の方は、浜美枝と若林映子。
後の「007は二度死ぬ」のボンドガールに抜擢された二人ですから豪華です。
浜美枝は、東北に向かう特急でゴジラに襲われたり、キングコングに捕まって、国会議事堂へ連れていかれたりと、とにかく悲鳴を上げっぱなし。さんざんな目に合っていました。
モンスターの手の中で恐怖の悲鳴を上げるヒロインというわけですから、ここはスタイルのいい浮世離れした美女が映えるというわけで、浜美枝がキャスティングされたのでしょう。
電車の中でキングコングに襲われるシーンは、最新作の「ゴジラ-1.0」の浜辺美波に引き継がれていました。
浜美枝は、本家本元「キングコング」のスクリーム・ヒロインのフェイ・レイのオーバーアクトを、かなり意識した演技になっていましたね。
彼女の怪獣特撮作品の出演は、本作と「キングコングの逆襲」の2本しかありませんが、この作品の印象が強烈で、もっとたくさんの怪獣モノに出ていたような印象になっています。
もちろんボンド・ガールの彼女もよかったですが。
但し、個人的には、浜美枝よりもインパクトがあったのは、ファロ島の原住民で、チキロ少年の母親役だった根岸明美でした。
当時の日本では、なかなか珍しい肉体派女優で、黒澤明の「生きものの記録」「どん底」「赤ひげ」などにも出演していましたね。
セリフらしいセリフはほとんどない役なのですが、なかなかセクシーなダンスを披露してくれていました。
お色気では、浜美枝を凌いでいました。
重沢博士役は平田明彦。この人といえば、なんといっても「ゴジラ」の芹沢博士。
ゴジラ・シリーズでは「ゴジラ」以来、8年ぶりの出演となりましたが、以後怪獣特撮シリーズでは、知性派脇役として欠かせない存在になりました。
東部方面隊総監に田崎潤、第二新生丸船長に田島義文などのシリーズ常連役者が顔をそろえたのも本作からです。
以降、東宝のドル箱となっていった怪獣特撮シリーズのフォーマットが完成したのは、この作品かからだといえそうです。
本作の男性脇役で特筆すべきは有島一郎。
この人が怪獣特撮モノに出たのはこの一本ですが、本作のコメディ・リリーフとしては、完全に主役の高島・藤木コンビを食っていましたね。
加山雄三の「若大将シリーズ」では、若大将の父親役でその名を知られた人気喜劇役者です。
怪獣対決は、最初は熱線放射がない分だけキングコングが劣勢でしたが、電気ショックで帯電体質になってからはパワーアップ。
ゴジラといい勝負になっていきました。
とはいえ、東宝としては、どちらが勝っても負けても困ってしまうというお家事情があります。
というわけで、最後は熱海城を破壊しながら両者もつれ合って海に転落。
リングアウトの引き分けという苦肉のラストでした。
当時映画館で見たときは、子供心にもモヤモヤ感が残ったのは覚えています。
大人の事情は、当然ながら今なら理解できますね。
ちなみに、怪獣が取っ組み合うシーンは、通常は高速度撮影して重量感を出すのがミニチュア撮影が定番なのですが、本作では逆にカクカクとした不自然な早回し的カットが、何度か登場します。
これは、前作「ゴジラの逆襲」の際、スタッフが誤って、コマ落としの微速度撮影の設定をしてしまったのを、特技監督の円谷英二が面白がって採用したもので、本作でもその方法は意図的に採用されています。
この辺りが、天才ならではのセンスなのでしょう。
ビートルズのジョン・レノンが、"I FEEL FINE" のイントロで、アクシデントで起きたフィードバックの音を面白がって、そのまま採用したのによく似ています。
とにかく本作は大ヒットをして、邦画の興行成績を塗り替えることになります。
当時はこの映画に、子供も大人も楽しんだわけです。
しかし今や特撮はCGによるデジタルVFXが主流の時代です。
山崎貴監督版「ゴジラ-1.0」のアカデミー賞を獲得したVFX技術を見てしまうと、さすがに着ぐるみのミニチュア撮影は、どれだけお金をかけてセットを作ったものであっても、残念ながらチャチに見えてしまうのは致し方ないところ。
山崎監督は、インタビューで、もしもまたゴジラを作る機会を与えてもらえるのだったら、次作は怪獣対決ものにトライしたいとおっしゃっていました。
ゴジラの相手がキングコングになるかどうかはわかりませんが、何年か先に、最新VFXによる怪獣バトルの新作を見せられたら、本作の評価はどうなってしまうのか。
我々第一次怪獣ブーム世代はおそらくそれほど無下には評価を下げないと思います。
チャチだろうが、時代遅れだろうが、当時リアルタイムで胸をときめかせた記憶で、とにかくノスタルジックには浸れます。
なけなしの小遣いで、戦闘機や戦車のプラモデルを購入している世代ですから、ミニチュアのセットに対する思い入れはそう簡単には消し去れません。
温故知新。
この映画の大ヒットがあったればこそ、そのエモーションを再び現代の映画ファンに、現代の技術で伝えたいというモチベーションが生まれたことは間違いのないところ。
しかし、やや心配なのは、子供たちは正直だということ。
彼らにとっては、もはやVFXによる特撮映像が当たり前だということです。
超リアルで高解像度なRPGで、エイリアンとも、ゾンビともネッ上でバトルしているのが、今の子供たちです。
僕らは、イマイのプラモデルの稚拙な部分をイマジネーションで補完しながら遊んでいましたが、その補完した映像よりもさらにリアルで高解像度な映像の中で彼らは日夜バトルしているわけです。
もしかしたら、そんな彼らにとっては、ミニチュアは、仮想現実としては、もはやショボいだけの存在かもしれません。
「ジュラシック・パーク」を見て、もはやリアルに動くダイナソーたちが当たり前になった子供たちが、レイ・ハリーハウゼンのダイナメーション特撮でつくられた「アルゴ探検隊の冒険」を見て、同じようにハイテンションになれるかという話です。
昭和の怪獣映画には、郷愁も思い入れもない彼らが、はたして本作をどう評価するのか。
個人的には、それにはかなり興味があります。
昭和の30年代前半までは、怪獣特撮映画は、大人も子供も楽しんでいました。
それが次第に、子供を意識したエンターテイメントになりながら、観客数を減らしていった東宝怪獣映画。
しかし、山崎監督による最新のゴジラが、この令和の時代に、再び大人も子供もそれぞれの視点から楽しめる娯楽映画を復活させてくれました。
間違いなく、山崎版は、平成以降のゴジラ作品としては群を抜くクゥオリティでした。
個人的には1954年の第1作目のゴジラと肩を並べる傑作だと思っています。
では、ファースト・ゴジラ・ショックから、8年を隔てて復活したゴジラ映画には、どんなジャッジが下されるのか。
その判定は、20年後のゴジラファンにゆだねるべきだろうと思います。
もちろん、その頃の怪獣マニアたちの、特撮リテラシーは格段に上がっているはず。
本作と、現段階の最新ゴジラが、同じ特撮怪獣史のレールに乗っけられたときに、本作の立ち位置はどのようなものになるのか。
とにかく、リアルタイム世代にまともな評価は下せそうにありません。
「面白い」と「懐かしい」は、オールド映画ファンにとっては本当に紙一重です。
多感な頃に焼き付いた印象は、やはり毛穴から染み込んでいるようです。
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