Amazon プライムで見つけました。
サムネイルの男優が、ベラ・ルゴシであることはわかりましたので、これはホラー映画であろうと踏んで再生ボタンをクリック。
上映時間61分と、ドラマ並の尺だったので、おもわず最後まで見てしまいました。
ホラー映画は好きですので、そこそこのリテラシーはあるつもりです。
しかし、このタイトルのホラー映画は今まで聞いたことはありませんでしたから、それほどヒットした作品ではなかったのかもしれません。
けれどこういう「隠れホラー」も嫌いではないので、知見を広げる意味で鑑賞させていただきました。
Amazon プライムには、この手の埋もれたクラシック映画が大挙ラインアップされているので目が離せません。
映画を見始めてすぐのキャスト・クレジット。
そのビリングのトップが、ベラ・ルゴシではなく、なんとカーロフとなっていてちょっとビックリ。
カーロフは、もちろんボリス・カーロフのこと。
なんと、ベラ・ルゴシとボリス・カーロフというユニバーサルのゴシック・ホラー映画を牽引した両巨頭の共演とわかり、ちょっと得した気になってしまいました。
両巨頭について少々。
ボリス・カーロフとベラ・ルゴシは、どちらもホラー映画の象徴的存在として知られる俳優です。
ルゴシは、1931年の映画『魔人ドラキュラ』でカウント・ドラキュラ伯爵を演じ一躍有名になりました。
しかし、その強烈なイメージとハンガリー訛りのため、その後は似たような役柄ばかりがオファーされるようになり、脱却しようと努力しましたが成功しませんでした 。
一方、カーロフは1931年の映画『フランケンシュタイン』でフランケンシュタインの怪物を演じ、ホラー映画のスターとしての地位を確立しました 。
その後も『フランケンシュタインの花嫁』(1935年)、『フランケンシュタインの息子』(1939年)で怪物を演じ、人気を博しました 。
また、1932年の映画『ミイラ再生』ではイムホテップを演じるなど、様々なホラー映画に出演しました 。
カーロフとルゴシは、5本の映画で共演していますが、役柄の大小に関わらず、常にカーロフがルゴシよりも上位にクレジットされているんですね 。
本作においても、圧倒的に出番もセリフも、ベラ・ルゴシの方が多いのに、ほとんど映画の後半から登場するボリス・カーロフが結局は物語のいいところをかっさらってしまう展開でした。
僕らの世代でゴシック・ホラーといえば、やはりイギリスのハマープロが製作した一連のモンスター映画です。
ドラキュラ伯爵といえばクリストファー・リー。
そして、フランケンシュタインといえばピーター・カッシング。
但し、ピーター・カッシングが演じたのはモンスターの方ではなくマッドサイエンティストの方のフランケンシュタイン博士です。
こちらの方の両巨頭は、後に「スター・ウォーズ」シリーズや「007」シリーズでも活躍したのはご存じの通り。
しかし、1920年代から、1950年代まではホラー映画といえば、ユニバーサル映画の独壇場でした。
ロン・チェイニー主演の『ノートルダムのせむし男』(1923年)と『オペラの怪人』(1925年)がユニバーサルのホラー映画の先駆けですね。
当時まだ珍しかった特殊メイクや壮大なセットを活用し、視覚的にも物語的にも観客を魅了しました。
そしてこの流れに乗って、ベラ・ルゴシのドラキュラと、ボリス・カーロフのフランケンシュタインのモンスターが1930年代のホラー映画を席巻。
戦争前後で、ホラー映画は下火になったものの、1954年の「大アマゾンの半魚人」で再びモンスター映画が息を吹きを返すという流れです。
ルイス・フライドランダー監督による本作は、エドガー・アラン・ポーの詩「The Raven」から着想を得ており、神経外科医の狂気を描いた物語です。
若いダンサーのジーンは、自動車事故で重傷を負い、命の危機に瀕してしまいます。
その彼女を救ったのが天才脳外科医のリチャード・ヴォリン博士。
手術は成功し、ジーンは舞台に復帰します。
ところがヴォリン博士は美しいジーンに執着するようになり、彼女への歪んだ愛情を抱くようになります。
しかしそれを知った彼女の父親であるサッチャー判事はそれを拒否します。
一方、脱獄犯のエドモンド・ベイトマンが、顔を変えて別人になり、逃亡生活から抜け出したいという願いから、ヴォリン博士のもとを訪れます。
しかしヴォリン博士は、ベイトマンの顔を破壊し、その整形手術を引き受ける代わりに、彼を操り、自分の邪悪な計画に利用しようとしますが・・・・・・・
ベラ・ルゴシ演じるヴォリン博士はエドガー・アラン・ポーに心酔して、彼の作品に登場する拷問道具をコレクションしているという設定。
この部屋には、天井からゆっくりと降りてくる鋭利な振り子が設置されており、サッチャー判事はそれに縛り付けられて命の危機にさらされます。
これはポーの小説『落とし穴と振り子』を模倣したシーン。
ジーンとそのフィアンセが、壁が徐々に狭まってくる部屋に閉じ込められるというシーン。
これは、ポーの短編小説『早すぎた埋葬』を彷彿とさせるシーンです。
映画全体を通して、描かれているのは、ヴォリン博士のポーに対する執着ですね。
彼は、ポーの作品を愛するあまり、その世界を現実のものとして再現しようとするわけですが、その歪んだ愛情と狂気が本作の恐怖となっているわけです。
暴れだすベイトマンを、部屋の窓の外からケタケタと笑い放つ博士の顔のなんと不気味なことよ。
あれ? この顔誰かに似てないかと思ったら、思い出しました。
日本映画界で憎らしい悪役をやらせたらピカ一の俳優だった進藤英太郎にそっくりでした。
本作は公開当時、その残虐な描写が物議を醸し、批評家や観客から賛否両論の評価を受けました。
今のホラー映画の水準から測れば、なんでもないシーンではありますが、何といっても90年も前のクラシック・ホラーです。
これしきの残酷描写でも、イギリスでは、その描写が問題視され、上映禁止となりました 。
ユニバーサル映画は、ポーの作品のダークな世界観を強調し、カーロフの怪奇な魅力を前面に出した宣伝活動を行いました が、本作は残念ながら興行的には成功したとは言えず、批評家からの酷評されたようです。
しかし、本作をカルト的に支持するファンたちも一定数いるそうで、本作を再評価する動きもあるようです。
個人的には、ゴシック・ホラーには、このクラシックなモノクロの映像が絶対に相性がいいんだよなあと勝手に思っている次第。
とにかく、ドラキュラではないベラ・ルゴシを見るのも、フランケンシュタインではないボリス・カーロフを見るのも今回が初めてでした。
そして、今回発見したのは、意外なことにフランケンシュタインのモンスターを演じたボリス・カーロフよりも、ドラキュラを演じたベラ・ルゴシの方が背が高いということ。
最後にもう一つ。
古い話で恐縮ですが、「鉄人28号」に登場する人造人間モンスターが、本作のボリス・カーロフに雰囲気が似ていてちょっとビックリしてしまいました。
おそらく横山光輝先生もこの映画をご覧になっていただろうと邪推する次第。
同世代の方なら分かっていただけるかも。
クラシック映画で、いろいろな発見をするのもまた楽しいものです。
しかし、出番があれだけ多くても、主演にはしてもらえないベラ・ルゴシがちょっと可哀想かも。
でも本作の主演がベラ・ルゴシと思うのは、たぶんあなたの思いルゴシ。
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