本作は今まで未見でした。
「審判の日」を回避し、運命は変えられるというポジティブなメッセージを残した前作。
ジェームズ・キャメロンに言わせれば、これにて一件落着であった物語でしたが、映画界の定石に漏れず、3匹目のドジョウは狙われることになったわけです。
当初、前2作を監督したジェームズ・キャメロンは、3作目にも興味を示していたようですが、1997年の「タイタニック」の大成功により興味が薄れ、その大役はジョナサン・モストウの手へ。
主役のアーノルド・シュワルツェネッガーは、キャメロが監督をしないのなら出演しないといっていたそうですが、出演料として3000万ドルが提示されていたことと、1990年代に入って、かつての人気に陰りが見えて来ていたこともあり結局出演を承諾。
サラ・コナーズを演じたリンダ・ハミルトンは、脚本に納得できずにオファーを断り、前作でジョン・コナーを演じて好評だったエドワード・ファーロングは、麻薬中毒でとても演技できる状態ではないという中で、本作のプロジェクトは始動しました。
しかしそれでも、本作の製作費は、前作を上回る1億7000万ドル。
主演のシュワルツェネッガーと、前作製作時よりもさらに進化したCGI 技術があれば、間違いなく稼いでくれるという腹づもりがあったのでしょう。
結論から言ってしまいますと、本作は2003年にロサンゼルスで初公開され、その後北米で一般公開。
世界興行収入は4億3340万ドルを記録し、2003年の興行収入ランキングで7位とまずまずのヒットとなり、批評家からは概ね好意的な評価を受けています。
シリーズも3作目となるとなかなか難しいもの。
これまでの路線を踏襲しているだけでは観客に飽きられるし、目新しさを強調しすぎても、違和感を持たれてしまいます。
ましてや、前作の大ヒットで、観客の期待はバカ上がりです。
ただ、シュワちゃんの活躍を前面に押し出し、進化したCGI 技術におんぶにだっこでは、莫大な製作費を回収できない恐れも。
まず、本シリーズの肝となる「審判の日」をどうするかです。
本作では、前作で阻止されたはずの「審判の日」が単に遅延されただけで、完全には回避できなかったという設定になっています。
審判の日を完全に回避できず、単に延期されただけだという展開は、人類の運命の不可避性を強調しています。
これにより、「未来は変えられる」という前作までのテーマが覆され、本作は、より暗い世界観に支配されることになります。
ジョン・コナーは、核戦争が起こらなかったことで無目的な生活を送るようになり、トラウマに苦しむ人物として描かれています。
本作で、ジョン・コナーを演じたのは、ニック・スタール。
正直、前作のジョン・コナーが、こんな女々しい放浪者になっていたのかという失望はありました。
しかし、この設定変更により、主人公の内面的な葛藤がより深く描かれるようにはなりました。
そして、サラ・コナーが物語の開始以前に、すでに白血病で死亡しており、本作において、彼女の存在感が大きく欠如している点は否めません。
この彼女の不在を埋めるのは、新たな主要キャラクターとして、ジョンの未来の妻となるケイト・ブリュースター。演じているのは、クレア・デインズです。
そして、なによりも、映画のインパクトを大きく左右する敵のターミネーターです。
パート3では、新たな敵として、より高度な能力を持ったターミネーターT-Xが登場。
T-X を演じたのは、クリスタナ・ローケン。
彼女はシリーズ初の女性型ターミネーターです。
彼女は液体金属と金属骨格を組み合わせた身体を持ち、高度な殺戮能力を持っています。
まるで殺戮を楽しんでいるようなサイコパスな表情を浮かべます。
そして、今回のT-Xには、ジョン・コナーだけでなく、将来の彼の部下になる者たちも標的にしていきます。
というわけで、恥ずかしながら、この時代の俳優となると、ロートル映画ファンとしてはなかなか知っている顔がありません。
どちら様も、本作ではじめてお目にかかった方ばかりです。
いずれにしても、「運命は存在しない」という前作のポジティブなテーマは反故にされた代わりに、本作では、アクションシーンがより大規模かつ派手になっていますね。
圧巻だったのは、クレーン車が横倒しになりながら、街並みを容赦なくなぎ倒していくシーン。
これは迫力満点でした。。
映画のエンディングで、ジョンとケイトは共に核シェルターに閉じ込められます。
そして人類の生き残りたちから未来を託される通信を受け取り、レジスタンスの指導者としての役割を担い始める未来を暗示して映画は終わります。
ケイト・ブリュースターの存在は、ジョン・コナーの人間性を引き出し、物語に新たな展開をもたらすとともに、未来のレジスタンスにつながる重要な要素となっています
つまり、『ターミネーター3』は前2作とは明らかに異なる雰囲気と展開を見せ、シリーズに新たな方向性をもたらしているわけです。
さて、本作でのシュワちゃんはどうか。
まずは、この時御年55歳であるにもかかわらず、3000万ドルのギャラに応えるように、パート1の時の体型に鍛え挙げて撮影に臨んでいたのはさすが。
今回彼が演じたT-850は、従来のT-800の改良型で、全体的な性能は向上しています。
2基の水素燃料電池(パワーセル)を動力源として内蔵しており、これは小規模な核爆発に匹敵する威力を持っています。
人間の心理をより深く理解する能力もプログラミングされていて、心理学も理解しています。
しかし前作のT-800と比べて、人間らしさや感情表現が抑えられており、人間の感情を学ぼうとしたり、笑顔を見せたりすることはありません。
これは前作のキャラ設定の過剰なヒロイズムからの反省であるようにも見えました。
より無機質で、任務遂行に特化したキャラクター性を強調していたような印象です。
なかなか衝撃的だったのは、T-850が、未来世界でジョン・コナーを殺害しているということ。
そして、ケイトによって捕獲され、リプログラムされて過去に送り込まれているという設定です。
これらの変更により、T-850は前作のT-800とは異なる、より複雑で多層的なキャラクターとして描かれています。
任務に忠実でありながら、状況に応じた柔軟な対応ができる高度な機械として設定されているのが今回のシュワちゃんということになります。
しかしながら、シリーズ最高の製作費がかけられ、それ相応の見せ場も用意されていながら、けっして前二作を越えた作品には成っていないという印象はどこから来るのか。
そして、前二作の路線を大きく軌道修正したまま終わったこのシリーズの今後はどうなるのか。
パート4を見るのが、ちょっと怖いような・・・
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