今から12年前の3月。
短歌川柳を駆使した東京スケッチ。
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花宿す桜の枝に三月の雨の雫が実をつけており
「忙」の字は心が亡ぶと綴られて短歌一首も浮かばぬ悲しさ
さざ波の湖面見下ろす二人連れ寄り添うのでもない微妙なその距離
「照れくさい」自分の女房と久しぶり寝たという我が友も四十二
元彼女夜明けの電話弥生雪恋も季節も後戻りかな
雨上がり土手沿いの道虹かかりその袂へとアクセルを踏む
ひなまつり綺麗なおべべにひなあられいつまでそれで喜ぶのやら
気がつけばあちらこちらに春の顔いい気になってくしゃみひとつ
ペラペラの紙一枚のしろものを宝にもする日々の生業
春浅き武蔵野の丘の飛梅よ一夜のうちに君の故郷へ
洗濯物干す手を止めて笑みこぼす誰かを好きでいられる楽しさ
卒業式学生気分もこれまでとはいからさんが街へ繰り出す
終業式渡り廊下にチャイムの音桜は蕾準備万端
ホワイトデー苦虫つぶしたサラリーマンそれでも小脇に菓子屋の包み
卒園式主役たちより着飾ったママ自慢の子得意満面
春間近青山通り午前九時半袖デビュー競う学生
ボンネット足跡つけて不届きな春待ち顔の子猫一匹
市場から通りにふくれる人車東京築地朝はここから
歌舞伎町朝生ごみに群れをなす街とカラスの生態系かな
皇居前お堀を滑走する鳥と並んで走る実年ランナー
朝六時銀座界隈裏通り朝始まる人夜終わる人
永田町浮世離れの魑魅魍魎我が我がと跋扈する
交差点頭揺らしてリズムとり音楽連れて歩く若者
散髪へいってちょこっと新しき自分を始めてみようかとふと
真夜中のしじまに一人目を閉じてそっとあなたに私を刷り込む
風さやか冬の記憶も薄れゆきお待たせしました桜咲きます
春告げる桜見守るその下で出会いと別れの悲喜交々
国技館両国二丁目大銀杏江戸と東京交差する町
池袋芸術劇場前広場カップルたちの展示会かな
花曇り地上に降りて来た空に首を突っ込む東京タワー
花粉症可哀想ではあるけれどどこかでちょっとうらやましくも
なごり雪去りゆく冬の置き土産桜の花に降りそそぎつつ
ターミナル駅の連絡地下通路急ぎ足の人見上げる住人
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