怪獣オタクでしたので、ゴジラシリーズは、「ゴジラ対ヘドラ」までは、全て見ています。
しかし、「平成ゴジラ」シリーズは、こちらもいい大人になっていましたので、ちょっとついて行けませんでした。
昭和ゴジラも、後半はだんだんと「子供の味方」「正義ヒーロー」路線になってきて、まだ自分は子供であったわけですが、次第につまらなさを感じてきていましたね。
「怪獣大戦争」で、ゴジラが「シェーッ」をするところあたりまでは、喜んで見ていたのですが。
でも、ゴジラは、やはり、凶暴でなければ面白くない。
申し訳ないが、あまり子供人気にはすり寄って欲しくない。
昭和ゴジラ世代としては、ずっとそう思っていました。
この映画の監督、金子修介は、僕よりもちょっと上の世代。
おそらく、昭和ゴジラに胸躍らせた少年の一人だったと思われますが、おそらくその想いは共通していたようです。
本作のゴジラは、その想いにしっかり応えてくれました。
さて、平成ゴジラシリーズ終了後の、第三期はミレニアムシリーズ。
その3作目。
ゴジラ映画としては通算第25作目です。
2001年の作品。平成13年です。
もちろん、この映画は劇場でリアルタイムでは見ていません。
今回、Amazon Prime で、初見。
映画評論家の町山智浩氏が、「WOWOW映画塾」で絶賛していたので、これは見ねばなるまいという気になりました。
金子修介監督は、平成ガメラシリーズの3部作を撮った人。
この方はもともとゴジラが撮りたかったそうなのですが、ガメラ映画で実績とキャリアを積んでから、満を持してのゴジラ映画ということになりました。
町山氏に言わせれば、金子監督が「好きなように、思う存分」撮ったというゴジラ映画。
やはり、ポイントは、ゴジラを原点に戻して、徹底的に、悪の権化にデフォルメしたこと。
なんといっても、この映画のゴジラは、「白目」ですから。
見るからに凶悪そのもの。
愛嬌のかけらもありません。
そして、その設定もすごい。
太平洋戦争で、海に散っていった全ての戦死者の英霊の無念の思いがゴジラを蘇らせたというもの。
我々が命をかけて守った日本のこの堕落ぶりはなんだ。
若者たちの無軌道ぶりはなんだ。
この怨念が、ゴジラに乗り移ったというわけです。
そして、このゴジラに立ち向かう怪獣たち。
こちらは、すべて日本の守護神という設定。
あのキングギドラも、この映画では、ゴジラから大和の国を守る日本神話から蘇った怪獣。
たしかに、キングギドラの頭は、龍や麒麟といった古来の伝説の生物のそれですので、宇宙怪獣と言われるよりも、こちらの設定の方がそのフォルム的にはしっくりきます。
さて、ゴジラ打倒の刺客として、まず登場するのが地底怪獣バラゴン。
僕がこの怪獣を初めて見たのは、1965年の「フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン」
少年真っ盛りの頃に見ましたが、これは好きな作品でした。
最後は、フランケンシュタインに頭上高く差し上げられて、投げ飛ばされていました。
そのバラゴンが、この映画では、日本を守るため、新潟から地底を移動してゴジラに挑みます。
しかし、バラゴンは健闘むなしくあえなく憤死。
頑張ったのに、タイトルには名前も出してもらえず、可哀想でした。
次にゴジラに挑んだのは、南海のインファント島からではなく、鹿児島県の池田湖から出現したモスラ。
商店街から、このモスラを見上げる姉妹が前田愛と前田亜季。
もちろん、ザ・ピーナッツが演じた小人姉妹を意識したキャスティングでしょう。
しかし、実際に姉妹の二人ですが、そのシーンのみの出演で、残念ながら「モスラの唄」は、歌ってくれませんでした。
そして、富士の樹海の氷穴から目覚めたキングギドラ。
バラゴンも含めたこの三体の怪獣は、すべて「護国聖獣」という設定。
つまり、本作ではこちらが正義の味方です。
ここに、自衛隊ならぬ防衛軍も絡んで、四つ巴の大怪獣バトルが展開していきます。
映画のヒロインは、新山千春。
役名は立花由里。
これは、あの「ウルトラQ」で、桜井浩子が演じた女性カメラマン「ユリちゃん」から頂いたかなと思いあたりニヤリ。
冒頭で、宇崎竜童演じる立花准将が説明していますが、この映画は、昭和29年に制作された、第1作目の「ゴジラ」だけを事実として踏まえています。
ですから、その後に作られた、ゴジラ映画の世界は、なかったことになっているという設定。
つまり、ゴジラは凶暴なままです。
民宿のトイレで小便をしている温水洋一は、見上げた瞬間ゴジラに踏み潰され、「ゴジラを殺したら可哀想」なんていっている篠原ともえは、病院の病室にいながら、ゴジラの尻尾の一振り。
とにかく、その殺戮と破壊は容赦ない。
「ネタバレ」するなという方は、まず先に映画をご覧くださいませ。
金子監督なりのこだわりは、随所に散見します。
ゴジラに襲われる焼津の漁協には、あの「第五福竜丸」のポスター。
ゴジラの背ビレが光って、放たれるのは放射能噴射。
遠くの小学校からは、そこにキノコ雲が見えます。
かとうかずこ演じる小学校の先生はおもわず、呟きます。
「原爆?」
ゴジラが、水爆実験の影響で出現した放射能怪獣であることは、周知の事実ですが、これだけ直接的な描写はいままであるようでなかったですね。
ラストでは、帰還した立花准将が、かけよる娘の由里に対してこういいます。
「来るな。残留放射能をまだ計測していない。」
このあたりのリアルさは、昭和ゴジラシリーズにはありませんでした。
「モスラ対ゴジラ」では、ガイガーカウンターが登場していましたが、みんな普段着でした。
ゴジラに破壊された防衛軍の戦闘爆撃機。
爆発する戦闘機という描写は、これまでのゴジラ映画にもありましたが、その残骸が地上に落ちて民家を破壊するなんていうシーンもありました。
これも、いままであるようでなかった描写。
わざわざ、セットを立てて、このシーンのために破壊していましたから、このあたりは、金子監督のこだわりでしょう。
とにかく、今も昔も日本の特撮は、なんといっても着ぐるみが基本。
ミレニアム・シリーズともなれば、昭和時代にはなかったいろいろな特殊技術の進歩はそれなりに感じましたが、やはり一番シビれたのは、精巧に作られたジオラマを、重量感たっぷりにのしのしと歩く怪獣たちの絵面。
これは、僕にとっては、今も昔も変わらない怪獣映画最大の魅力です。
子供の頃から一貫して、夢に出てくる怪獣シーンは、すべてこれでしたね。
僕のような、旧ゴジラ・オタクのみならず、新世代の大人たちの鑑賞にも十分耐えうる作品になるように意識して作られた本作。
なのに、なのにですよ。
惜しむらくは、公開当時の併映作品が「とっとこハム太郎 ハムハムランド大冒険」
うーん。
これはなんとかならなかったか。